ゆめ

□、
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私は今日、ばっさりと髪の毛を切りました。彼が好きだと言っていた腰辺りまである髪の毛をです。少し惜しい気がしたけれど、全く後悔はして居ないのでした。だって此の長い髪の毛を好きだと言ってくれる人が居なければ、意味は無いのです。私は溜息を吐いて、机に突っ伏しました。嗚呼、此の儘死んでしまえたならば。目頭が熱くなって、涙が溢れそうになりました。矢っ張り私は、彼が好きだったのだろうと思います。もしかしたら酷く、愛していたのかも知れません。もう今となっては、よく判らない事でした。だって彼は、死んでしまったから。来島さんが泣きながら彼の名を呼んでいるのを、私は偶々見てしまいました。あの時の絶望感は今でも鮮明に覚えて居るのです。晋助が、死んだ。ガツンと鈍器で殴られた様な感覚に浸りながら、私は其の場に崩れ落ちたのです。…なんて、過去を思い出している私が居るのでした。全く馬鹿馬鹿しい。終わった事なのだから、忘れてしまえば良いのに。けれど其れが出来無いのは、未だ私が、彼を好きだからなのだと思います。彼が死んでからもう四年が経ったけれど、何だか未だ何時もの様に私の名前を呼んでくれるんじゃないか等と考えるのでした。私は肩に付かない程度の短い髪の毛をくるくるいじりながら、窓の外を眺めます。彼はあの星の中にいるのだろうか。じわり、不意に涙が滲みました。けれど其の涙を拭ってくれる彼はもう居ないんだと思うと、余計に止まりません。あの日、晋助が死んだ日に涙は枯れた筈でした。あーあ、本当に情けない。彼が居ないと何も出来ない自分に腹が立ちます。ねえ晋助は最期に誰を想って死んだの、呟いた声は夜の静寂に吸い込まれて消えました。まるで何もかもを拒絶する様に。私は、彼がくれた、短刀を、心臓に、押し当てま、した。





思い出すのは貴方の
笑顔ばかりでした







(090801)











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