ぶっく(名前変換なし)
□、
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「さよならは、しないんだよ」
彼女はそうして微笑んだ。これが最後でも、最期でもないことを俺は十分理解している。つもりではいるけれど、やっぱり納得できないといえばその通りだと思った。だってきっと、逢うことは難しくなるだろうから。
おめでとうございます、俺は早口にことばを紡ぐ。ありがとう、彼女も早口にことばを紡ぐ。真っ白なそれに包まれた彼女はとても綺麗で、目を反らせなかった。
「幸せ、ですか」
「ふふ、なんか恥ずかしいわね。幸せよ、とても」
ふふふ、少し頬を染めながら微笑む彼女はやっぱり綺麗だった。ああ、俺はそんな風に彼女を笑わせたかったんだ。無力な俺は、何一つできなくて。彼女を笑わせるのは疎か、泣かせることも怒らせることもできなかった。
きっと宍戸さんなら、どんなときだって彼女を笑わせられるんだろう。こんな風に彼女を綺麗にしたのは紛れもない、宍戸さんなんだから。やっぱり俺は脇役、だった。最早、脇役でもない通行人Aなのかもしれない。
「ああ、そろそろ式の時間だわ」
「…そうですね、早く行かないと」
「…ねえ、長太郎」
「、はい?」
今日の服格好いいわ。にっこり笑って彼女は、俺の心臓を鷲掴みにして抉っていった。ああ、そんなこと言わないで、諦められなくなる。
俺は教会とは逆の方向に歩いた。彼女と宍戸さんの結婚式には出なかった。
どうか僕にあきらめさせてください
(ばいばい、初恋、)
(幸せになって、ください)
(081021)