ニシキギ 壱

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オヤジと一緒に甲板に出たら待ちかまえていた兄弟達が駆け寄ってきた。





「オヤジ!」




「こいつ家族になんのか!?」




「もう気になって集中できねェよ!」




「クロウさんもいつも以上におかしいし!」




「いや、いつもおかしいけれども!」





・・・ところどころ失礼だな。


きっとクルーに言ったのはクロウだろう。
昨日帰り際に宣言したし。


クルー達がわあわあ騒いでくる中でオヤジは甲板中に響き渡る大きな声を張り上げた。





「新しい家族だ! 仲良くしやがれ!」





静まり返った甲板。でもそれは一瞬。

瞬きした次の瞬間には





『うおおおおおおおお!!』





野太い声が甲板中から上がった。





「よろしくな!」




「仲良くしようぜ末っ子!」




「お、おう!」





俺は末っ子なのか・・・。今まで兄としてやってきたから違和感がある。
まあそのうち慣れるかな?

がっしがし頭を撫でてくる奴らに揉まれながら必死になって返事をしていると





「あ、クロウ」




「クロウさん」





そんな声が聞こえてきた。

心臓が跳ね上がる。
別に何もしてねェのに・・・何でだ!?

俺の周りにいたクルー達がそっちを向いて俺から一歩離れていく。


その間にもクロウはだんだんと近づいてきて・・・





「エース」




「クロウ・・・」





俺の前で止まった。


ど、どうすりゃいいんだ!?

周りのクルー達に視線をよこしても流される。ひでェ! 自分で考えろってか!?


少しパニックになっていると





「家族になったのか」





そう緩やかに言われた。
それは質問というより確認みたいな声色で。
俺は





「お、おう」





と返す他なかった。



するとクロウはそうか、と呟いて、



「入ってくれてうれしい。これからよろしく頼む」




目を細めて、

少しだけ、笑った。


よーく見ないと分からないくらいの変化。





気付いたやつらはしん――と静まる。
気付かなかった奴らもその雰囲気に飲まれて静まり返る。


それほど珍しい表情変化。
本当に少しの変化だったがかなりレアなものだった。


俺はというとなんか顔が熱くなってきて・・・




「こ、こちらこそっ・・・頼む!」




しどろもどろに返すしか出来なかった。


そんな俺の必死さにオヤジは笑ってまた叫んだ。




「野郎ども! 宴の準備だ! 船内中に伝えろ!」




『お・・・おうっ!!!』




ばたばたと走り回る仲間達。

その中で俺はクロウに頭を撫でられていた。

クロウの顔が見れねェ・・・。

どうすりゃいいんだ!?


やっぱりそんな俺の姿を見てオヤジは隣でグラグラ笑う。



そうして、俺の航海は新しい船と新しい仲間と共にもう一度始まった。














第1章 了

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