ニシキギ 壱

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俺が事実を告げたあとクロウは片眉を少しだけ下げた。
・・・器用なやつ。無表情のくせに。


俺は何を言われても平気なように身構える。
罵倒されんのには慣れてる。大丈夫だ。だから飛びかかるようなことなんて・・・ない・・・ハズだ。

そう心していたら予想と違った言葉が降ってきた。





「俺はお前の父親を恨んじゃいないぞ」




「・・・へ?」





予想外だった。今までで一番。

間抜けな声を出したせいか体から緊張が抜ける。
きっと今俺アホな面してんだろな。クロウはそれを笑うようなことはせず続けた。





「生まれたのがあの年じゃなくても・・・俺はいつか、同じように恐れられていただろうしな」




へ? 無表情なクロウの顔にどこかこう・・・陰がかかったように見えた。
じっと見てるとクロウがこちらを振り向く。その顔はいつもと変わらない。見間違い?





「・・・そんなことねぇよ!」




「?」




「俺はアンタを怖くねぇ」





クロウの眉が動いた。
珍しい表情変化。ほんの少しだけどな。






「そりゃ・・・あん時は少し驚いたけど・・・今は全然怖くねぇ」





力のことなんか気にならねぇよ。


小さく笑われて





「エースも二人と似たようなことを言ってくれるのか」





と言った。





「昔、髭とイゾウも会ったときに同じようなことを言ってくれた」





クロウは本当にポンポンと昔のことを話してくれる。

まるで何も気にしてないように。そんなわけがないのに。





「俺はあの時、その言葉に救われた」





優しい目をして呟く。

そして真面目な顔をしてこっちを向いた。





「エース、俺はお前の父親を恨んじゃいない。だから・・・」










「何も気にせず、ここに入っていいんだ」







クロウは・・・なんで俺の心が読めたんだろう。



一番言って欲しかったことを言ってもらえた。

その言葉に胸に転がっていた石ころが溶けて消えていく。
同時に目頭が熱くなってきた。クロウは目頭を押さえた俺の背を包帯の巻かれた手でポンポン叩く。




次々に嗚咽が洩れるなかで俺は・・・覚悟を決めた。









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