ニシキギ 壱

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「今日も静かだな」




「本当だな。どうしたんだろうか火拳は」






ここ2日、破壊音がなくなった。

いや・・・いいことなんだが。1ヶ月間あの破壊音に慣れた俺たちには違和感に感じられた。

ふむ・・・慣れとは恐ろしいものだ。





「で、今日もクロウは・・・」




「ああ、ずっと見ている」





俺とジョズの視線の先には食堂の窓からじっと火拳を見るクロウの姿。
昨日と変わらず同じところから見ていてそれはさながら人形のようだった。





「クロウ、何を見ているんだい?」




「ビスタ」





肩を叩けば人形が人間に戻って振り向いた。
今日もその顔は美しい。





「エースが・・・昨日からおかしくてな」




「ああ、オヤジへの襲撃が全く止まったな」





クロウもやはりそのことを不思議に思っていたのか。





「・・・こないだ拝んだのがそんなにまずかったか・・・」




「拝んだのかい・・・?」




「供え物があったのでつい・・・な」





つい、じゃないだろう・・・。

火拳もそんくらいで怒るようには見えなかったがな。
あっちもクロウに対してだけ態度が違っているようだし。





「それとも・・・髭の良いところを語りすぎただろうか・・・」




「・・・何してるんだ?」





真顔で笑えることを話すのは彼の良いところと言ってもいいのだろうか?





「尋ねられたんだ」



「へぇ、何を聞かれたんだい?」



「髭の良いところを・・・その前に"何でアイツをオヤジと呼ぶ?"と尋ねられた」




「その質問は・・・」





オヤジに対し、この船に対し興味を持つのは良い傾向だろう?


言うとクロウに?という顔をされた。
やっぱり彼は感情についての知識が足りないらしい。





「きっと彼は悩んでいるんだよ。大丈夫だ。どこかが悪いというものじゃないだろう」




「そう・・・ならいいんだが」





きれいな眉を少しだけ寄せて首をかしげる。
クロウにこんな顔させるとは・・・火拳もやるな。





「もしかすると火拳が家族になるのも近いかもしれないな。それよりクロウはケガは大丈夫なのかい?」




「ああ、包帯も薄くなった。ちょっとなら動かしていいとも言われた。今日からいつものところで寝るつもりだ」




「そうか・・・ムリはしないようにな」




「ああ」




あの場所はかなり開放的過ぎて寝るにはちょっと・・・かなり適してない場所なんだが・・・。
バランス力とパワーに長けているクロウには関係ない。

彼には普通の個室よりあそこの方が向いてるようだ。
能力も、事情にも。

事情っていうのは・・・まあ追々話すとして・・・。



とりあえず今は火拳とクロウだな。

また火拳から近づいてきたら一番早いんだが・・・。



その願いが叶えられたのはその日の晩。
神は信じていないが火拳に行動を起こさせた何かに礼を言いたい。









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