ニシキギ 壱

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しばらく俯いていたら俺に近づく足が見えた。

それはそれ以上近づきも遠ざかりもしない。止まったみたいだ。

靴は・・・藁を編みこんだ・・・確か足袋とかいうやつ。

イゾウか?と思って顔をあげたら





「・・・・・・何してんだよ」





クロウが膝を着いて手を合わせていた。





「供え物があったから・・・つい、な」




「供え物じゃねぇ!」





つい、で敵を拝むな。





「これを持ってきた」





差し出されたのはいくつかのパンと野菜。

どちらも出来たてのようでまだ湯気が出ている。


その渡された時に長い袖から見えたクロウの手。
前よりかなり包帯が薄くなっていた。いつ取れたんだ?
手を見つめる視線に気付いたと思うがクロウはそれについて何も言わなかった。
どういうわけかは分からないが。






「・・・なあ、ちょっといいか」





立ったままのクロウにそう勇気を出して話しかければ二つ返事で快諾し俺の前の壁に胡坐をかき寄っかかった。





「何で・・・クロウはあいつのことをオヤジって呼ぶんだ?」





さっきマルコにも聞いたこの質問。
クロウはどう返すのか。





「俺は・・・彼をオヤジとは呼ばない」




「へ?」






予想外過ぎた答えに思わず変な声が漏れた。






「・・・え、アンタは家族じゃないのか?」




「いや、家族だ」




「じゃあアイツはオヤジだろ?」




「俺は違うんだ」





ワケ分からん・・・埒があかねぇ・・・。





「どういうことだ?」




「俺は・・・本当の父親を誇りに思っている」





間が空いて言われたその言葉に俺は返す言葉が何も思い浮かばなかった。





「ただ、同じくらい髭を凄い男だと思っている」




「髭・・・?」




「ああ、この船の船長のことだ」





・・・世界最強の海賊のことを髭って・・・。
いいのかよ白ひげ・・・。





「・・・アイツの・・・白ひげのどこが凄い?」




「屈することのない強さ、なによりも家族を一番に考える心」




それに裏切りをしないことと・・・髭の形が12年間全然変わらないとこ、ずっと若々しいこと・・・と続いたところで俺が止めた。終わらなさそうだったし・・・。
つか後半違った気がすんのは俺だけじゃねぇはずだ。絶対。







「あと・・・包容力の凄さ。何を言っても受け止めてくれる」






その一言に心が揺れたのは確かなこと。



この後「イゾウの方がもっと素晴らしいと思うがな」と呟いたのは聞かなかったことにした。

あんだけ褒めててそりゃねェだろ・・・。











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