ニシキギ 壱

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こんこん



俺が部屋で酒を煽っているとノックが響いた。




誰だ?





「髭、起きてるか」





俺をこんな呼び方すんのは一人しかいねぇ。





「ああ。入ってこい。クロウ」




今日は一体なんの相談事を持ってきた。








「夜分にすまない」




「まだ寝る気はなかった。丁度話し相手が欲しかったとこだしな。グラララ…」




「髭」





こりゃ俺のことだ。
クロウは息子ではなくただの家族の一員としてこの船に乗っている。正直その立ち位置は11年経った今でもはっきりしていない。
簡単にまとめちまうとこいつは本当の父親を誇りに思っている。だから俺をオヤジと呼ぶのは嫌なんだそうだ。





「どうした?」




「…実はな」





こいつが俺の部屋を訪れるのはそうない。
来るときといえば緊急の用事があるときと思い悩んで解決法が見つからなかったとき。
あとは俺が誘ったときくれェだ。

今回は恐らく後者の方だな。





「今・・・エースのことで少し行き詰まっている」




「どこが少しだ・・・」





無表情のこいつの顔には疲労の色が浮かんでいた。一体どんだけ考えてやがった・・・。


エース・・・こないだのことか・・・。
あれは俺も驚いた。





「俺は・・・エースに家族としてこの船に乗ってほしい」




「・・・」




「だがこないだの俺のせいでエースは俺たちに近付くのが減った。どうすれば元に戻れると思う」




「そりゃ・・・」





こいつはどんだけ人間関係が分かってねぇんだ・・・。
普段は利発だがこういうことはなにも分かってない。





「今のお前らの関係は遅かれ早かれ一度はなっていたことだろうが」




「どういうことだ?」



「この先あのハナッタレが家族になったとしてもだ、いつかお前ェの前で火を見せる。その時お前は今回と同じようになっていただろうが」




「・・・ああ。そうだな」





あっさり認めた。
こいつの火嫌いは心より体の方に強く染みついているらしい。無意識であんな行動をとってしまう、と前に話していた。
押さえ切れる自信がねぇんだろうなァ。





「あと半月もすりゃまた後ろひっついて来るさ」




「・・・だと、いいんだが」





仲良くなりてェと互いに思ってんのならならねェはずねェだろ。





「久々に酒でも飲まねェか? いいのがこないだ入った」





「乗りたいところだが・・・アルコールは控えるように言われていてな」






肌が見えねェくらいの包帯に巻かれた両手を俺に見せる。

良いじゃねェかちょっとくれェ。





「お前が好きだと言っていた"都ワスレ"もこないだ入ったんだが」




「・・・」





クロウの肩がぴくっと揺れた。

物欲がねェこいつの唯一欲しがるものだからなァ。





「今なら"立葵"付きだ」




「乗ろう」





こいつを買収出来るなんざこの俺・・・とイゾウくれェだろうな。






ナースの大声で目覚めたのはそれから時計の針が一周回った頃。








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