ニシキギ 壱

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クロウを追って走った。
着いた場所は船の一番後ろ。人気の少ない船縁だった。





「クロウ」





名を呼べばこちらへ振り向き首をかしげる。これはこいつの昔からの返事の仕方。
名前を呼べば大抵どんな時でも振り返る。

窺えたクロウの表情は一見いつも通りの無表情。ただ・・・俺には見えた。長い付き合いのおかげか、それともこいつのかもし出す雰囲気が教えてくれたのか。
その顔はどこか・・・沈んでいる。なんつーか困っている。





「イゾウ、俺はどうすればいい」




こちらもいつも通り抑揚のない平坦な声。でもやはりどこか違う。





「そりゃ後で考えろ。一緒に考えてやっから。それより今は」





俺はつかつかと靴の音を立てクロウに寄り体をこちらに向かせた。こいつも本当にでかくなったな。

そして両の手のひらを見えるように引っ張り上げる。


つん、と肉の焼けた臭いが鼻を突く。あと鉄の臭いも。





「とりあえず治療だ」





焼けただれた真っ赤な手に触れぬよう気をつけ、俺はクロウの肩を掴み船内へ入っていった。


「痛くないから問題ない」とかの言い訳は一切無視。
こんな怪我人には医務室行きを拒否する権限なんざねェ。











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