ニシキギ 壱
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戦闘が始まり少し経った。どんどん壊れていく敵船を見てすげェ、という言葉しか浮かばない。
襲ってきた敵船にはメインマストがない。
もともとそんな形だった? いや、そういうわけではない。
折られた。
つい2、3分前に。
一人の男の
片手の握力によって。
強すぎんだろ・・・。
そいつは今、敵船の甲板のど真ん中で、折ったばかりのマストを振りまわしている。当たった奴らはそのまま吹き飛んでいく。
「お、やってるねェ」
俺の隣に1番隊のマルコが来た。変な髪形してるから名前覚えちまったじゃねェか。
何でこっち来るんだよ・・・。
ただ、俺はそんなことを聞くよりも、
「なぁ、アイツのあの力・・・何なんだ?」
こっちの方が知りたかった。
するとマルコは何でもないような顔で
「ありゃただのバカ力だ」
・・・そんなわけねェだろ。
「信じると思うか」
「嘘じゃねェよい。あいつは生まれつきあんなバカ力だ」
その顔は笑っておらず、真剣そのもの。冗談だ、と言うのを待っていたが口にしそうな雰囲気じゃない。
「マジかよ・・・。なんでだ?」
「さァなァ。そりゃ多分本人も知らねェと思うよい」
「・・・変なの」
「あいつに変じゃねェと思うか?」
「思わねェ」
そこは即答出来た。クロウは変だ。
そこが興味をひかれる。
またあっちを見たら次はマストを捨てて、刀を使っていた。
切る・・・というか叩き切っている。あのスピードで振り下ろされたらどうやったって防げなさそうだ
「・・・なんか予想してたのと全然ちげェ」
「何がだい?」
「戦っているときのクロウ」
マルコはああ、と言って
「今日は暴走気味だい」
「暴走気味?」
「いつもはもっと冷静にさばく。たまになるんだよい。むしゃくしゃしてたりすると暴れ回る。今日はまだ軽い方だい。荒れてる時のあいつはすげェぞ」
また、"荒れてる"・・・どうせこれも聞いても答えねぇんだろうな。
今までも何人かのクルーに聞いてみたがクロウの過去は誰も答えてくんなかった。他のことは何でも教えてくれるのに。
・・・なんか重いんだろうな。
じっと戦闘を見ていたら敵船が凄い音を上げた。
よく見るとまたさっき折れたはずのマストが刺さっている。その横にはクロウの姿。
・・・無理矢理差すなよ。
船底まで突き刺さったのだろう。船は少しずつ、沈み始めた。
白ひげのクルーは慌てて小舟に乗り移る。
クロウはまだそこに残っていた。上を見て、佇んでいる。
沈んでいく船、ただ一人残された人間・・・なんか映画のクライマックスみてェだ。
いつまで経っても戻ってこないクロウにしびれを切らしたのかイゾウがクロウの元へつかつか寄っていった。
そして、
がつんっ
そんな音がこちらまで聞こえた気がした。
イゾウがクロウの脳天を殴ったのだ。それではっとしたのかクロウは大人しくイゾウと共に小舟を移る。
・・・やっぱりあの2人の関係はよくわかんねェ。
こちらの船に戻って来た16番隊は何人か軽傷を負った者はいるようだが大けがした奴は一人もいないようだ。
・・・さすが世界最強の海賊団のクルー、といったところか。
そして、クロウとイゾウは返り血一滴付いていなかった。クロウとかあんなに激しかったのに・・・
・・・一体どうやったらそんな芸当出来るんだ?
クロウはこちらが見ていたのに気付くとやはり無表情で片手を上げた。
そしてイゾウの元へ行ったクロウを見て、俺はあいつのことが知りてェ・・・って本気で思った。
・・・
・・・
はっ!
べ、別にクロウのことが気になっただけだからな!
この船に興味は湧いてねェんだからな!
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