ニシキギ 壱

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フォアマストに一つの影が登っていくのを俺は見た、というか今日の見張りの16番隊クルー達は見た。


あれは・・・どう見てもクロウさんじゃない。
というかクロウさんはいつもの位置にいる。


クロウさんとは俺たち新米クルーの(多分)先輩。10の年からこの船に乗ってるって話だ。見張りの時毎回フォアマストの上で見る。あそこが寝床という話だ。

年齢は・・・知らん。25の俺より年上に見えるから「さん」をつけている。
そういやいくつなんだろうな。まあ、いくつでも敬称をつけるのは変わらんだろうな。あんな大人びた人を呼び捨てになど・・・新米にはまだ早い。


まあ、年齢のことはもういいだろう。


あとクロウさんについて特記することは噂によると16番隊のNo.2ということだ。いや、実際のところは分からない。
もっと強いやつがいるかもしれないしイゾウ隊長を超えている可能性もある。
そこは戦ったところを見たことがないから何とも言えん。ただの噂だ。
ということで新米クルーの中ではクロウさんがNo.2という位置づけになっている。



よし、現実問題に戻ろう。


あの影は一体誰だ?




「ありゃいつも甲板に座ってるヤツじゃねェのか?」




隣のヤツがぼそっと言った。




いつも座っているヤツ?



後ろ甲板を振り向くと、本当だ。あいつがいない。

最近乗せられた火拳のエース。懸賞金はいくらだったか・・・覚えていない。


気絶したところを無理矢理乗せられたという
どっかの海賊団の船長だ。
政府からも危険視されていて何を思ったのかオヤジはそいつを息子にすると言い出して火拳がいるという島に向かった。
オヤジの決断だから何も言わねぇが・・・何をしようとしてるんだろな。



とにかくそいつがクロウさんのトコヘ行こうとしている。

何が目的だ?



隣のヤツが銃を構えた。


アイツ自然系だろ? 効かないんじゃないか?



風は追い風。声はこっちまで聞こえてこない。
少しして火拳がクロウさんの隣に座った。


あり?


隣で銃を目から離したのが見えた。ひどく驚いている顔をしている。ま、俺も似たような顔なんだろうな。




「何話してんだ?」



「さあ、全く聞こえん」




だよな。

っと、そういえば




「サッチ隊長が昼に言ってたよな?」



「あれか? 今日は狼と猫の始めての話し合いが見れるぞ、ってやつ」



「おう、それだ。狼と・・・猫?」



「クロウさんと火拳のことか?」




クロウさんは狼に見えるとして・・・火拳が猫? いや、無理あるだろう。




「じゃ、これはサッチ隊長が仕向けたのか?」



「それは・・・ありえるな。あの人変なとこで気ィ回してるからな」



「書類遅れてマルコ隊長にしょっちゅう怒られてんのにな」



「気がきくのか気がきかねェのか分からん」




ぷっ、とお互い吹き出した。


そして風が止まって聞こえてきた。



「俺はエース」

「知ってる」

「以後よろしく」

「こちらこそよろしく頼む」





・・・意外と仲良くやってんのか?

隣のヤツは予想外の平和的な会話を聞いてバカらしくなったんだろう。銃を下に置いた。




「なぁ」




「あ?」



「サッチ隊長の狼と猫の初めての話し合いってあながち間違いじゃなくね?」



「猫か?」



「猫だろ」




ふむ・・・そう言われて見ていれば見えないこともない・・・。

いつもの甲板でのあの様子とは全然違うしな。


・・・なんかそう言われてみたら可愛くなってきた。あれが可愛く見えるとは・・・眼科に行かねェとか?




「攻める猫と受け止める狼、そうみてたらおもしろいな」




・・・本当だ。




明日サッチ隊長に言おう。
狼と猫の顔合わせは成功みたいだって。

あとイゾウ隊長にも。
多分あの人なら片方の口角吊りあげて笑うんだろうな。

きれいな顔が簡単に想像できた。



それから船内中をその噂が回った時一体どんな背びれ尾びれが付いてんだろうな、と考える。



ああ、今日の見張りは退屈しないでよさそうだ。











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