ニシキギ 壱

□05
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・・・心の中の葛藤は好奇心があっさり勝利をおさめた。





真夜中。

あの影は今日も見える。


フォアマストの元へと歩く。

そして目的の場所に着くと俺は垂らしてあるハシゴに足を掛けた。




「よっ」



さあ、ここからだ。



マストの縦と横が重なる十字の部分で俺は気合を入れなおした。
高いところは嫌いじゃねェがこんな足場の悪いところは面倒だ。ちょっと気を抜くと真っ逆さまだかんな。




上の帆を張るワイヤーを掴みながら横へ横へと動く。


下を見ると・・・後悔した。




あっちもこちらに気付いたようだ。
黒い闇の中で月の光を反射させて輝く2つの目。怖ぇよ・・・。



そしてやっとすぐ傍まで辿りついた。


ここの明るさにも慣れてきて、浮かび上がった人影のシルエット。


え、


こいつは、



じ、と見てると顔のパーツや髪形、格好が月明かりのおかげで見える。


やっぱり、




「アンタ・・・ここで何してんだ?」



「それはこっちの言うことだ、火拳。晩飯、あれじゃ足りなかったか」




いつもメシを運んで来る長髪和装のあの男だった。


こっちがそれでも返事をせず口の端を下げてると




「何の用だ」




怪訝そうにもう一度聞いてきた。




「そんなに睨むなよ。ただ・・・気になった。毎晩ここにいるヤツのこと」




それがこいつ・・・クロウとの初めて交わした会話らしい会話だ。







俺はその場に腰かけた。

隣には机のような板が取り付けられておりそれを挟んで俺とこいつが座ってる。

ふーん、バランス力があるなら意外と快適な場所だ。
風も気持ち良いし、景色も良い。




「あー・・・睨んだわけじゃない。もともと少し目つきが悪くてな」




少しどころじゃねェよ、そう返すと




「・・・よく言われる。つい無表情になってるらしくてな・・・」




ぼそっと返事が返ってきた。こいつ無表情なの気にしてたんだな。


そして、予想外に会話が続いた。



メシ持ってくるときいつも黙ってたからあんま喋んねェ奴かと思っていた。




「俺はエース」




「知ってる」




そりゃそうか。さっき火拳って呼んだし。




「アンタの名は」



「・・・クロウ」



「良い名前だな」




クロウ。よく似合った名前だ。

するとクロウは眉を寄せて、




「・・・俺は口説かれているのか・・・?」




あいにく俺は同性を恋愛の対象にしたことがないんだが・・・、そう続けた。
俺は慌てて首を左右に振る。



「ち、ちげェよ! ただアンタに似合ってるな、って思っただけだ!」




クロウはそんな俺のリアクションににふっ・・・と少しだけ・・・ほんの少しだけ目じりを下げてと冗談だ、と言って笑った。




「アンタ・・・」



「何だ、怒ったか?」



「きれいだなー」




不覚にも、目が離せなかった。
男の顔をきれいだなんて思ったのは初めてだ。



長い黒髪と和装。大人の雰囲気を醸し出しながら本当に少し笑うクロウにぴったりだ。



そしてその後言われた「やはり・・・俺は口説かれているのか」との問いに慌てて否定を返したのは言うまでもない。













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