ニシキギ 壱
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前に見えるフォアマストの上で人影を見たのは真夜中だった。
何者かは分からない。顔が闇で全く見えないからだ。
はしごを使ってマストの上まで行き、それからよじよじ横に渡っていけば着く、帆が張ってある木。
あそこは普段クルーも登らない。登るのは帆布の修繕の時くらいだ。
こんな真夜中、いや、明るい時でも登るのは大変危険だ。
影は全く動かず、じっとしている。
・・・何してんだ。
あそこは見張りの見える位置だし怪しい動きをすれば確実に見つかる。
心配ないか。
・・・別にこの船が心配なわけじゃねェからな。
この船にはまだ俺の仲間も乗ってる。燃やされたりしたら被害があるかもしんねェから気になってるだけで・・・。
ダメだ。言いわけがましすぎる・・・。
こっから出て行って俺が不審者に何が出来るってわけでもない。
何か怪しい動きをするならもう行動を起こしてるだろうし、それなら俺より見張りの奴らが動いた方が早い。
つーわけでそのまま寝ることにした。
・・・明日この船燃えてなきゃいいな。
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