ニシキギ 壱
□02
1ページ/1ページ
2日も同じところにいると周りを見る余裕も出てくる。
どんなにイラついて、どんなにむしゃくしゃして1日中視線を落としていても飽きというものは必ずくる。
俺がこの船で学んだことだ。学びたくなかったがな。
というわけで俺は昼間はこっそり、夜は常に顔を上げて自分の体で出来た影以外の場所も見るようになった。
明るいうちに堂々と顔を上げてたらダメだ。
顔を上げているとあいつらが寄ってくるのは2日目で十分分かっている。
何故かはさっぱり分からねェ。あいつらは無駄に俺に絡んでくる。
というわけで俺が自分から顔を上げるのは奇襲の時と暗くなって周りの奴らが少なくなってからに限られた。
・・・ああ、首が痛ェな。
日が完全に落ち、昼間よりかなり静かになった甲板。
そろそろいいか、と顔を上げ船縁によっかかる。
首を左右に捻るとすんげー音がした。
あー視界がちかちかするー。
しばらく何も考えず黙って座っていると誰かが近寄ってきた。
・・・また来た。
和装の長髪の男。
背は高く、肩幅が広い。
歳は・・・俺より少し上に見える。いや、おんなじくれェかもしれねェが、一つに結んだしっぽみてェな長い髪がそう見せる。
格好は和装。
袖丈が異様に長い、腕が全然見えないくらいに。
袖口、襟、あと帯が赤だ。
そして右足んとこにばーん!と白ひげの海賊旗が描かれたものを着てる。
確か・・・あの髪を上げた女みてェな隊長もこんな感じの和装だった。
違うところといえば袖の長さと色、それに腰は帯できちっと締めてあるところだ。
この船じゃ普通なのか?と思って昼間こっそり周りを見てもやっぱりこいつとその女みてェな隊長だけだった。
「・・・食え」
目の前にずい、と出されたのは一杯のスープと5個のパン。
この男は1日3回朝昼晩におれにこうして食事を持ってくる。
いつも無表情に一言「食え」と言って。それ以外こいつに話しかけられたことはない。
全く接点はねェのになんでメシを持ってくんのかは全く分からねェ。
とにかくこうしてとにかく無愛想に差し出されたメシを受け取ると、俺が口に運ぶまで動かず、無表情で、こちらを見続ける。
他の奴らが持ってきても断るのにこいつのメシだけを受け取るのはこういう理由からだ。
立ったまんまでこっちを凝視してくるからなんか監視されてる気分だ。
罪人か俺は。
・・・・・・いや、海賊も犯罪なんだけどな。
そして今日も俺は食事を受け取る。
・