ニシキギ 弐

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俺は今、敵船の中心で能力をフル活用していた。




「て、めェ・・・! さっさとくたばれ!」



「誰が!」




罵詈雑言叫んでくる奴等に能力を投げつける。

そんで負けじと叫んだ。




「てめぇらの敵襲でクロウに何かあったらどうするんだァァァァァ!!」



『なんのことだ!』




なんで知らないんだよ! と叫べば知らねえよ! と返される。

これは詳しく説明するしかないな、と炎を収めようとした時だった。



――――――うおおおお!!!



背中方向のモビーからすげぇ大声がここまで轟いてきた。




「な、なんだ!?」



「俺が聞きてェ!」




なんだ? なんの叫びだ?
いろんな状況を想像する。

こんな叫び、今まで一度も聞いたことねぇ。

想像がつかなかった。


とりあえずさっさと戻ろう。
おさめようとしていた炎をもう一度全身から放出させる。

叫びはまだ終わらない。




「行く……っ」




ぞ、と気合いを入れるため呟いたその時、



たん―――っ




「え・・・!?」




真後ろになにかが着地した。
視界の隅に見える白い布。ちらちらとなびく黒い長い髪。




「は?」




それは―――




「クロウ・・・?」



「久しぶり・・・らしいなエース」




最近の俺の頭のほとんどを占めていたクロウだった。




「お、起きたのか!」



「ああ、心配かけた」



「う・・・わあ・・・」




動くクロウにここまで感動するとは思わなかった。

この喜びをどうしたらいいかわからなくて取り敢えず辺りに炎を出す。


・・・・・・あ!!




「わ、わりィ!」



そういやクロウ炎苦手だった!
あわてて辺りの火を全て消す。

あっぶねェー!!


大きく息を吐いたらぴた、と冷たいものが背中にあたった。


ん? クロウの手?
・・・冷たっ!

氷みたいな、今まで炎に囲まれていた俺にはそれほどまで感じた。



「エース」



久しぶりの声に動悸が早くなる。




「構わず出してくれないか?」



「え」



「火を」




わけがわからなくなった。
クロウに火を頼まれた?

え? 出すべきなのか?




「俺は平気だ。・・・恐らく。保証は出来んが・・・」



こんなに決断を鈍らせる後押しの言葉あるか?

と思ってたら今まで固まっていた敵方が動き出した。




「うおおおお!」




そいつは俺にではなくクロウに斬りかかっていく。
俺とクロウは今向かい合わせ。
敵の姿はこっちからの方がよく見える。
それでもクロウは気付いてるはずだ。後ろから斬りかかられることに。

でも動かない。これじゃまるで!




「う、らァっ! 火拳!」




俺が能力出すの待ってるみてェじゃねェか!


顔の横を通っていった火拳。クロウは何事もないように後ろを向いてそれを確かめた。
振り返った顔も無表情の通常モード。
クロウが・・・火を出してもキレなかった!

こいつ、本当にクロウか? とそこからの疑いが始まる。
まさか・・・何かの能力者?

だとしたらこの無表情、そうもつわけがない。

じっと、切れ長の二つの目を睨み付けた。


するとクロウが静かに口を開き始めた。




「言っておくが・・・俺はクロウだぞ?」



「げ」




わ、心読まれた。
なんてふざけて言ってみる。
冗談だよ冗談。

クロウじゃなけりゃ海走ってここまで来れねぇだろうしな。


ニシシ! と笑いかけるとクロウは少し眉をあげた。

そして真面目な顔して語り出す。




「あの時に気がついたんだ」



「え?」



「あの、地下で俺を救出しに来てくれたとき」



「ん? ああ」




なんのことだ?
話の先が読ない。




「薬をうたれ転がっていたとき、エースの炎か見えた。炎だというのにエースのものだとわかると嬉しかった」



「!」




あ、・・・これって・・・




「俺の記憶に残ってるのは人を傷付けるだけの炎なんだ。俺の両親を焼き殺しただけの炎・・・」



「・・・え」



「だが・・・分かったんだ。エースの炎は守るための炎だ。俺の知っているものとは全く違う、恐ろしくない炎だった。だから俺は我慢できる」



「・・・!!」




クロウの過去の破片を知れた、それと俺の炎が認められた。
そのことに俺は戦場だというのに思わず敵から目を逸らしてしまった。

普段なら命取りのこの行動。

だが俺の背にかかってきた敵をクロウの手にあった長く太い木材が凪ぎ払う。

ごすん、と鈍い音をたてながら崩れ落ちていく敵の男。

・・・こいつはなんでも武器にしちまうんだったな・・・。




「だからクロウこれから戦場で並んで立たせてはくれないか?」


 
「っ!おう!」




夢じゃねぇよな!
これ夢だったら起きたら海に飛び込む!

そう決心し俺はクロウと背中合わせになるよう敵に向き合った。
まだまだかなりの数がいる・・・。

だけど!



「・・・背中は任せたぞ!」



「ああ」




一人じゃねェ! すぐ終わる!


背中合わせに向かい合い、お互い前の敵だけに集中する。
まさかクロウと共闘する日が来るとは思わなかった。




「いくぞっ!」



「まかせろ」




背中にたよりになる声を受けながら、俺は炎を舞い狂わせた。












君の背は俺が








「なんでもうちっと我慢できなかったんだよ!」



「敵は倒したぞ」



「この戦で唯一受けた傷が仲間の能力っておかしいだろ」



「・・・がんばったんだがな」



次は我慢する。と呟いた顔は至極真面目。

炎我慢の訓練に俺が付き合い始めたのはこの翌日からだった。


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