ニシキギ 弐

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暗闇の中で




「・・・・・・」




クロウの目が薄く開いた。




「・・・・・・っ・・・」




ゆっくり頭を上げようとするとすさまじい痛みが内から外から体を圧迫する。

頭が酷く重い。

浅い呼吸を繰り返しながら体を動かそうとしたが全く動かない。
今見えているのは本当に自分の足か・・・? 着物を着ている男などそういないのに疑いかけたほどだ。

少し視線を動かすと腕に足に腰に、先が紫になるほど食い込んだ細い縄が幾重にも巻いてあった。


そこから先に痛みは全くない。

ついでに言うと感覚も全くない。


重い頭は下に下げすぎると後頭部から首にかけて鈍い痛みが脳まで届く。


気力を使い頭を上げるとバランスを崩し横へ倒れこんだ。
やはり痛みは分からなかった。

ぐるぐると回る視界。頬に刺さる細かい砂利さえどうすることも出来ない。長い髪は視界を遮る。


どうするべきか・・・


普段の自分とは正反対に全く力が使えない。


取り敢えず楽な姿勢になろうと足を伸ばす。
動かした瞬間視界は白に変わっていくので時より自分の姿勢が分からなくなった。



と、周囲に変化が起こった。

いくつかの足音が近付いてきたのだ。

クロウは奥の痛む瞳を必死に動かし視線を上に固定する。

やって来たのは数名の男。

何やら笑いながら何か言っているが頭が全てをエコーさせ思考をを掻き回す。


男の仕草から唯一分かったことは自分の体は何か薬を投与されたということのみだった。

なんの薬かは分からない。
男の手にある先の長い注射器と真っ赤にぱんぱんの己の右肩を見てそう判断した。


やはりこんなときでもクロウは冷静だった。
焦りはない、恐れはない、怒りもない。ただ無表情で状況を処理しようとする。

そんなクロウの反応が気に入らなかったのか男たちはクロウの細い腹に一発蹴りを放ってどこかへ行ってしまった。

辺りにはなんの格子もない。だが追いかけることは不可能だった。

噎せかえる気力はもう残ってない。

どれも薬のせいだったのか、そう考えると納得出来た。

これでは舌を噛むことも出来ない、クロウはまずそこを思案した。
イゾウに面倒をかけるくらいなら、白ひげ海賊団の恥となるくらいなら死んだ方がマシだな、そう冷静に考える。


白ひげ海賊団が全力で自分を探し回っているのも知らずに、

大恩人のイゾウが自分を必死になって救いに来ているのも知らずに、

クロウはまた、瞼という現実と夢の世界の境界線を引いてしまった。









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