ニシキギ 弐
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クロウが行方不明になったとマルコから連絡が来て一日がたとうとしていた。
その間で入った情報は町のお婆さんが言っていた一つ、
「最近黒髪の別嬪さんを狙う事件が起こっているんだよ。姉さんも気を付けなさいね。僕、いざとなったらちゃんとお姉ちゃんを守ってあげるんだよ」
この後イゾウに八つ当たりで叩かれた。僕、自分が可哀想だなって思っちゃったよ。
「こんだけ探しても手がかりなしか・・・」
「意外とこの島広かったんだねー」
連絡のとれたクルー総出で探してもこの島全部はまだ回りきれてない。
といきなり少し先を進んでたイゾウが振り向いた。
「悪いな、クロウのせいで遊ぶ時間減らしちまって」
「え?」
「お前ももっと遊びたかっただろうに」
こっちを見るイゾウの顔には珍しく焦った表情。イゾウは普段ポーカーフェイスだけど今回はそんな余裕ないみたい。
眉をきゅっと下げた顔。イゾウのこんな顔いつぶりだろう。
僕はぎゅ、とイゾウの腕をとった。
「大丈夫だよ! クロウが見つかればまた来ればいいんだし! だからね、探そ!」
イゾウにこんな顔して欲しくないよ。
だから早く、クロウ出てきて。
僕はイゾウの助けになれる唯一のことをしてやろうと垂れ下った手をとり、また走り出した。
「ん? 怪しいやつらが来なかったかって?」
「そう! 船でどっか行ったりしなかった?」
「怪しいやつらって・・・そう漠然と言われてもな・・・」
「えーっと・・・」
僕らは場所を変えて港で聞き込みを始めていた。
今の僕の相手はおじさん。日に焼けて、格好からして漁師らしい。
僕もどんなやつがクロウを連れていったか分からないから何も説明できない。
僕が困って首を傾けると思い出したようにおじさんはぽん、と手を叩いた。
「そういやいたいた! 朝に怪しい男が!」
「本当!どんなやつ?」
「変な髪型しててなー。黒髪の美人見なかったかって聞いてきたんだ。もしかしたらあいつ・・・噂の人拐いだったかもなぁ」
「見た目は!」
期待を込めて聞いた質問。
それは予想と反する形で回答された。
「服装は・・・コックが着るような服だったなぁ! 黄色のスカーフ巻いて」
「ん? んん」
一人浮かんだけど頭をふってはらう。
「何か頭に変なの乗っけててなー。あ、フランスパンみたいなやつ。こめかみに傷のある大男だったな!」
「・・・・・・・・・」
期待させやがって。あのリーゼントむしりとる。
「お、おじさん、そいつ多分僕の捜してるやつじゃないや! 他に何かなかった?」
すぐにでもあのリーゼントをむしりに行きたい気持ちを抑えておじさんににかっと笑いかける。
僕ってなかなか演技派だよね。
考える素振りを見せたから少し黙って待つ。
するとまたぱん、と目の前で手が合わされた。
「いた! 怪しいやつら!」
「どんなの!」
「こう、たくさん怪我しててなー、和服の男を抱えて昨日この島を出ていったよ」
「・・・・・・」
和服の男、恐らくクロウだ。
だけど喜ぶ前に、イゾウを呼ぶ前に一つだけ言わせて。
「なんでそんな事件な光景すぐに思い出さなかったのさ」
僕のじと目と共に送られたそれは元気のいい大きな笑い声でごまかされてしまった。
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