ニシキギ 弐

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じゃり、じゃり、薄い足袋を挟んで砂利を踏みしめる感触が足の裏に伝わる。

エースと別れたクロウは人通りの少ない静かな道を歩いていた。
店はなく、人も住んでいない。たまに見かけるのは精々ホームレスと言われる家を失った者たち。

彼はここに迷い混んだのではない、自らこのような場所を目指してきたのだ。


やがてクロウは広く開けた場所に出た。
中央には水の出ていない噴水が設置されている。寂れたベンチがいくつか置いてあるあたり、元は公園のような広場だったのだろう。

クロウはその中央まで歩き、誰もいないのを確認して少し大きく息を吸い込んだ。




「何の用だ」




閑散とした広場に広がる声。
響いた声に一時はなんの変化もなかったのだがクロウのじっと見つめていた一点の方向からやがて数人の男達が現れた。
服装はバラバラ、町で見かけたとしても記憶に残らないような容姿をしている。

出てきた人数は四人。
やがて一人の男が口を開いた。




「なんだ兄ちゃん、気付いていてたか」



「当たり前だ」




エースと町を歩いていた時から。
たくさんの不審な視線が自分を捉えていることに気づいていた。




「じゃ・・・今から付き合って・・・貰えるよな?」




ちゃき、と取り出したナイフ。
サバイバルナイフといわれるそれは手入れを怠っていないようで日の光を浴び、美しく光っていた。
全員同じようなナイフを持ち、こちらへ一歩踏み出しかけたとき




「はっ・・・!?」



「はや・・・っ」




先手をとったクロウが力一杯地を蹴って、一気に男たちとの距離を縮めた。
そのまま、二人の男の腕を叩き折る。
反動でもう一人の肩を、そして最後の一人を頭から沈めた。




「ぐぅ・・・」



「がっ・・・」



「いてぇ・・・」




勝負は一瞬、勝敗は明白。
頭が陥没した男以外はそれぞれ紅の液体が噴出している部位を押さえて踞った。




「・・・しまった・・・やり過ぎた」




ここまでやる気はなかったクロウは腕を押さえている男のもとへ歩み寄る。
もちろん無表情で。それは男たちからしたら鬼のようにしか見えない。




「大丈夫・・・なわけないか。見せてみろ」



「ひっ・・・!」



「悪いようには・・・っ!?」




突然クロウ視界が黒に覆われた。瞼の裏ような闇ではなく、人工的な黒。




「っ・・・」




暴れ、その目隠しを引きちぎった瞬間クロウの黒髪を結んでいた紐がはらり、と舞う。



・・・まずい。



慌てて腕を伸ばし掴もうと足掻く。
もちろん後ろから襲撃してきた人物は視界から逃がさない。
それは一人の男だった。他の四人のようにどこにでもいそうな格好の男。

そして、伸ばした腕が髪紐を掴んで安堵した瞬間、


ばち・・・――――


背後から腰に何かが押し当てられた。


一瞬で白にそまっていく視界。

最後の力を振り絞り自分に何かを押し当ててきた人物の腕を握り潰す。
みしり、というよりめきめきと馬や鳥と同じそれの感触を味わいながら奥深くへと潜っていく五本の指。


それぞれがくっついた瞬間、クロウは髪紐と同時に意識を手離した。












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