ニシキギ 弐

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頭上から声がかかったのは電気は全て消した真っ暗闇のなかだった。




「・・・イゾウ」



「あ?」




クロウの声。
こんな時間にどうした。

枕元の灯りを点けその姿を確認する。
やはりクロウだった。




「どうした?」



「・・・今日はここで寝させてくれないか?」



「あ?」




今夜は晴れ。
何もないときにはクロウは自ら率先してマストで寝ようとする。
幼い頃は止めてたが理由を知ってからは放っておいた。
そっちの方が本人曰くよく寝れるらしい。

そんなこいつが部屋で寝るときは天気が悪いときか、体調を崩した時かそれか




「・・・また怪談話したのか」



「ああ・・・ラクヨウの話が怖かった」



「はあ・・・」




怖くてどうしようもない時だった。
こんななんも感じてなさそうな顔をしてもしっかり心は持っている。
ただ感情の歯車が表情の歯車に届いてないだけだ。ま、それが変なんだけどな。




「ったく、怖がるなら聞くなよ」



「怖いもの見たさという言葉がある」



「お前に感情について言われても納得出来ねぇよ」



「失礼な」



「ま、いい。ここで寝な」



「助かる」




それに安堵したような目をして部屋の隅にあるハンモックを取り出そうとした、




「クロウ、こっちで寝るか?」



「・・・?」




ぽん、と片肘ついた俺がいるところ、つまりベッドを叩けばクロウは首を振る。




「いや・・・そこまで迷惑は」



「一緒に寝たくないか?」



「寝たい」




本当にこいつ正直だよな。

ぽんぽんと叩いていると諦めたようにでも嬉しそうに枕片手にこっちへ入ってきた。




「久しぶりだな、一緒のベッドなんて」



「そうだな」




いつ以来だろう。
取り敢えず五年はないな。




「・・・狭くないのか?」



「ん? ああ、少しな」




大きいとはいっても二人用には作られていないベッド。
二、三回寝返ったら落ちそうだ。




「でも悪くはねェよ。それだけお前がでかくなったわけだし」



「・・・そうか」




初めて一緒に寝たとき折れそうな腕に気を付けて寝たことを思い出す。
こいつが今より半分くらいの大きさでそん時はベッドは普段一人で寝る時とさほど変わらなく感じた。




「親が子の成長を嬉しく感じるのがよくわかる」



「イゾウは嬉しいか」



「そりゃな、八年前からお前の親代わりみてぇなもんだし」



「・・・そうか」




こっちを向くクロウの黒髪を撫で付け俺の胸元の方に引き寄せる。
そして初めて同じように怖がって一緒に寝にきた時と同じように囁いた。




「大丈夫、怖いもんは俺達が退治してやるからよ」










だから寝ろ。








「そういやお前火の訓練は」


「・・・今夜は休みだ」


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