ニシキギ 弐

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「・・・・・・・・・」




クロウは立っていた。



薄暗い路地裏。

人気の少ない通り。





「・・・・・・」




そして今,頭の9割を占めていることを声に出す。




「・・・イゾウは何処へ行った」




ようするにはぐれたんです。







いつも通りの無表情で大通りへ戻る。

クロウの脳内ですることはもう切り替わっており船に戻るのは止めになった。
イゾウが行ったから大丈夫だろう、そう考えて。


というわけでクロウはまた町を闊歩し始める。
この治安の悪い町を一人で。







「火薬と砥ぎ石をくれ」



所変わって先ほどイゾウと共に訪れた武器屋。
カウンターの白髪交じりの店主に声を掛けた。
店主は無表情なクロウに対して愛想良く答える。




「あいよ。兄さん用事は済んだのかい? もう一人の兄さんと慌てて出ていってたけど」



「ああ、イゾウがいなくなってな。戻るのは止めにした」




「いなくなったって・・・はぐれたのかい? 戻り方は分かるかね」



「ああ、覚えている」



「そうかい、じゃあ大丈夫だね」




サービスしておいたよ、と品を差し出す店主にクロウは礼と代金を手渡す。


店を出ていく時店主がクロウを呼びとめた。



「道中気をつけるんだよ。その着物と白ひげのマークは目立つ」



「分かった。有難う」



そして少し上げられた口角。クロウは外へ出て行った。

その背中を見つめながら店主は呟いた。



「・・・砥ぎ石もサービスしておけば良かったかな」



男は美人に弱いのです。







クロウはまたも町を歩く。
船が出るのは夕方。まだ2時間ほど余裕がある。
クロウは優しい店主を思い出し上機嫌で散策していた。・・・勿論顔には出てないが。

そんな中後ろから何者かに肩を掴まれる。ぐい、と引かれるがそんなのに負けるクロウではない。
逆にそいつを前に来させた。




「おーおー、えっれェ力の強い兄ちゃんだ」



「何か用か」




立ちはだかったのは大きな男。
長身のクロウでさえ見上げる高さだ。腕なんかクロウの5倍以上の太さをしている。

幼いころから絡まれるのには慣れているクロウはもちろん怯まず見返す・・・が見た目ただの無表情から変化はない



「そう無反応だと寂しいだろ」



「・・・・・・無表情ではない。つもりだ」



「あんた昼間、もう一人似たような服のヤツと一緒にいたろ」



「・・・・・・イゾウがどうした」



こういった輩はクロウ本人の心とは無関係の冷たい表情に大抵いなくなるのだがこの男は違った。
イゾウのことが上がったからにはいなくなられたら逆に困る。




「さっき攫われるところを見た」



「・・・・・・」



「付いてくりゃその場所を教えてやるよ」



「・・・・・・」









嘘か、真か





「お、イゾウ! 怖っ! お前の周り怖っ! あ、じゃあクロウも帰って来てんのか!」


「ああ、はぐれた」


「はぐれた!?」


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