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□再会
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夜半過ぎのことだった。
カンカン、と金属を叩く音と共に、「政府が来たぞー……っ」誰かの報せ。遠くから聞こえてくる声。振り返れば、赤い光が辺りを照らしているのが見えた。

…僕と撫子ちゃんはその時、既に集落を出ようとしているところだった。

政府が、ある探し物のために、あまり足も踏み入れないこの辺りまで偵察に来るらしい、という情報が入ったのは、今日の昼頃のことだった。

探し物、というのは、もちろん彼女のことだろう。

僕たちはすぐに旅支度を整えると、夜になるのを待って、集落を出た。それでも、どこから来るかわからないから、様子を伺いながら、だ。

だから、政府が現れた、という声が聞こえた時も、まだそれほど道を進んでいなかった。

集落には、政府から逃げてきた者たちが隠れ住んでいたが、僕が情報を流すと、別の隠れ家を求めて、外に出ていった。

残っているのは、僕の仲間だ。彼には、他の人が逃げ切るために囮になってもらっているが、役目を終えたら急いで逃げるように伝えてある。

「大丈夫なの、央の仲間は」
撫子ちゃんも後ろを振り返り、心配そうに呟く。

「大丈夫大丈夫。いざとなったら抜け道あるし。こういう時のためのジャーナリストなんだからね」
「…ジャーナリスト、関係ないじゃない」
「えへ、まぁね」
僕は撫子ちゃんの手を繋ぐと、暗闇を明かりももたずにひたすら歩き続けた。

次に目指すは、北にある集落。そこにも僕の仲間が隠れ住んでいる。

辿り着くためには、だいぶ長い距離を歩くことになるけど。

「撫子ちゃん、大丈夫?」
「ええ、平気よ」

旅慣れている僕はともかく、撫子ちゃんは、着ている服からして、旅向きではない。出会ってから2人でここまで来たけど、きっと足も痛くなっているに違いないのに、彼女は一度も弱音を吐かない。強いんだ。

僕としては、僕の前でぐらいは、弱音を言ってほしいのに。

「次の集落にたどり着いたら、会いに行こうと思う人がいるんだ」「…誰?」
「この間、助けてくれた人」

廃墟で出会った、撫子ちゃんを知っているらしい人。

「…っ、何で」
「有心会に所属してるらしいから、僕じゃ知らない情報を持っているかも知れない」
それに、彼女がなぜキングに追われているのか、諸々の情報も。情報を先導する僕らでもわからないなら、政府と直接渡り合う彼らなら、何か知っているかもしれない。



「―ーそれは困りますね。その人をあちら側に渡すわけにはいきません」
「え?」
「あそこ!」
いきなり声がした。固まっていると、撫子ちゃんが前方を指差す。目の前に白い毛皮を羽織った男が立っている。やたらフワフワしてそうな毛並み。

「だ、誰?」
「こんばんは。ぼくは、政府の者です。彼女を返してもらいにきました」
政府のって…このお兄さん、どう見ても、いかがわしい職業の人に見えるんですけど!

「だって、向こうから来てるんじゃないの?」
「待ち伏せです。あちら側から扇動すれば、出てくるのではないかと思ってましたけど、僕の考えは、間違ってなかったみたいです」つまり、政府も囮だったというわけだ。
「ちょっと汚いよ!」
「いいんですよ、汚くて。だってぼく、政府ですから」
あ、そうか。
って納得してる場合じゃない!
「この人、私をこの世界に連れてきた人よ」
撫子ちゃんが声を潜めて言う。

「…ってことは、夢から出てきた人?」
「ええ」
「何話してるんですか。逃げる相談ですか。あなたたちには、もう逃げ場はありません。ぼくに投降するしか道はありませんよ」
男の言葉に、僕は肩をすくめた。
「うぅ、それは困るなー。でも僕、平和主義者だし」
「ちょっと、何、頼りないこと言ってるのよ」
僕の言葉に、怒り出す撫子ちゃんと笑う男。
「物分かりがよさそうで助かります。これでも僕も暴力は嫌いなものですから」
「だから、拳以外で勝負だ!」
「はぁ?」
2人同時に声を上げる。
僕は胸を反らして、宣言する。

「ふっふっふ、だから拳以外の方法で勝負しようよ。そして、勝ったら見逃してもらう」
「はぁ…なに言ってるんですか、あなた。正気ですか?」
「いたって正気!…勝負方法は、じゃんけん!」
「誰もやるなんて言ってないじゃないですか。もう、バカなんですか、この人」
「ええ、バカなんだと思うわ…」
「2人とも、僕のあまりの素晴らしい作戦に口がきけないみたいだね。それなら、始めようか。最初は……」
「央!!」
撫子ちゃんが僕を呼ぶ。

反応したのは、2人だった。

僕と男。

「ふざけてる場合じゃないわよ。先を急がなくちゃいけないのに」「ええ?ちっともふざけてないのにー」
「いいから行くわよ。この人が固まってる間に」
撫子ちゃんが僕の手を引っ張って、男の脇を通り抜けようとした時、僕の手を、男が掴んだ。

「わ、ちょっと何…っ」
「…」
答えずに男は、僕を凝視する。糸目が薄く開かれて、紫色の瞳が僕を映す。
「…なんですか?」
「…………え」
「なかば、なんですか?」
小さな声。心もと無さそうな。でも、その声と瞳に記憶が揺さぶられる。

(まさか)
まさか、まさか。
「まどか、なの?」

僕は何年ぶりかに見つけた、弟の名を呼ぶ。
円はかつてそうしたように、小さくこくりと頷いた。


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