favarite

□混乱
1ページ/2ページ




キングは、その名の通り、この国の王だ。
政府の頂点に立ち、一度も表に顔を出さないから、内部でも少数しかその正体を知らないと聞いた。
…その、キングに追われている? そんなの、聞いたことがない。

「どういうこと?君は、キングを知っているの?」
「知らないわ。いきなりこんなところに連れてこられて、わけがわからないのに」
「…何、言ってるの?」

混乱しているのだろうか。彼女の言葉は支離滅裂だ。
すると、睨み付けるように僕を見る。

「じゃあ、何て言えばいいのよ。夢の世界だと思ってたのに。まさか、10年後の世界だなんて。世界が壊れて、こんなことになってるなんて…っ」

「えーと?」
「レインが私を利用してたなんて…っ」
ぽろぽろと泣き出してしまう。

えーっ。まさか泣き出しちゃうなんて。
ど、どうする?
女の子の慰め方なんて、わからないよ。
僕は考えた挙げ句、彼女をぐっと引き寄せて抱き締める。

「なっ…」
「ほーら、怖くない怖くなーい」ぽんぽん、と昔小さかった弟をあやす時にやったのと同じように、戸惑う彼女の背中を叩く。

はじめは、固くなっていた彼女の体は次第に力が抜けていき、僕の胸に頭をもたげてきた。お互いの体温が混ざりあって、熱いくらいだ。

「落ち着いた?」

こくりと頷く。

「追い詰められると、混乱しちゃうよね。ほら、深呼吸。してみて」
彼女が僕の腕の中で、言う通りにする。

「…ありがとう。もう大丈夫よ」「うん、それならよかった」
ほっとして、僕はゆるゆると腕を離す。

少しばかり、彼女の体温を名残惜しく思いながら。

って、違う。寒いだけだからね!

「取り乱してごめんなさい。あまりにも、わからないことばかりだったものだから」
「いいよ、落ち着いたならよかった」
「…私は九楼撫子。信じてもらえないかも知れないけど、10年前の世界から来たの」
「え?」

次いで、発せられた彼女の言葉は、僕を驚愕させるには十分なものだった。




10年前、という言葉に、目が瞬く。
「どういうこと?」
「私、キングに10年前から連れてこられて来たの」
「10年前」
バカみたいに何回も呟く。
「冗談じゃなく?」
「ええ。政府で目覚めた時、レインにそう言われたの。だって私、昨日まで10歳だったはずなのに」
…突然の告白に、僕の思考がついていけるか自信がなかった。

彼女の言葉を総合するとこうだ。
彼女…撫子ちゃんは、昨日まで2010年で普通の生活を送っていた。

12歳の女の子として。

それが、キングによって、2012年のこの世界に連れて来られた。目覚めたら、22歳の姿になっていたという。
これって、どういうこと?

【彼女の言葉が本当なら】

政府は時間跳躍の技術を手に入れているということになる。でも何のために?

そして、12歳だった彼女が、時間を跳んでどうして、22歳の姿になっているのだろう。わからないことばかりだ。

それに…九楼撫子?聞き覚えがある。
…そうだ。

「もしかして…撫子ちゃん?」
「え?」
「九楼グループの」

急に撫子ちゃんが怪訝そうな顔になる。昔、少しだけ会った面影と重なる。

「忘れちゃった、よね?少し会っただけだし。僕は、央。英央だよ」
彼女の目が、大きく見開かれた。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ