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□獰猛な獣を飼い慣らす
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お嬢が俺に触れるだけで、俺はこの世界に存在してるんだって思える。
こいつの手が、指が俺の背中に回されてぎゅっと俺を抱きしめてくれるだけで、理性とかそんなもん吹っ飛んじまって。
「んっ、トラ…」
お嬢が苦しそうにもがくけど、俺はそんなの聞く余裕なんてねぇ。
噛みつくみたいに、お嬢の唇にキスをする。貪る。深く。俺の中の何かを満たすみたいに。
足りない、
足りない、
足りない、
俺は長いことそう思いながら生きてきたような気がする。それはいつだって俺の中にあって、乾きを求めている。俺はもうずっと飢えていたんだろう。…必要とされることに。
耳許に唇を寄せると、お嬢が声を上げる。
嫌がったって、やめる気はさらさらなくて。
お嬢も本気で嫌がってるわけじゃないって、俺は知ってる。
お嬢は俺のモンで、
俺はお嬢のモンで。
もう離れられないって知ってる。
この体温が、俺を世界に繋ぎ止めてくれてるから。
にしても。
「難儀なことになっちまったよなー」
「なにが…?」
「まさか、こんな厄介なヤツに惚れちまうなんて」
「それは、こっちの台詞よ。トラみたいな獣、飼い慣らすのが大変なんだから」
「それはこっちの台詞だっつうの。お嬢みたいな女、俺じゃなきゃ誰も相手しないだろ」
毎日のようにこうして喧嘩して
キスして抱きしめあって、こいつの何もかもを俺のものにしたくて…その度、こいつじゃなきゃダメなんだって、何度も思い知る。
溺れてるんだ。
俺はきっと、この先も自分の中の獰猛な獣を抑えることなんて、出来ねぇ。
「しゃーねーなー。お嬢になら、飼い慣らされてやってもいい」
「やけに偉そうなペットね」
これから先だって、満たされることは、きっとない。
お嬢にも手に負えないだろう。
だけど、俺は離れてやるつもりなんてない。お嬢が嫌がったって、ずっとそばにいるつもりだった。
…もし、いなくなったとしたら。
俺はきっと
世界を、めちゃくちゃに引き裂くんだろう。
*