novel・present
□星屑に祈る
1ページ/3ページ
「寂しくなったら星空を見上げてごらん。星がその寂しさを埋めてくれるから」
そう言ったのは誰だっけ? 記憶の奥深くに残る言葉。思い出すのは私より年上だったこと、優しい男の子だったこと。まだ小さかった私にマフラーを巻いてくれたこと……。
そういえばあの頃の私はまだ病弱な子だった。
ぼんやりと、記憶が蘇る。
あれは誰だったっけ?
*
八年前の十二月。ちょうど七歳になった頃。
一時退院で家に戻ってきていた時、科学館の天体観測会に連れて行ってもらった。
何の星座を見たのかはもう覚えてないけど、いつも真っ白だった天井が真っ暗で、その空いっぱいに散らばる星は、まるで夢のようだった。
「うわあ……すごい……」
溜息混じりのそんな言葉を発して夜空を見上げていた時、すぅっと冷たい風が私の頬を撫でていった。
思わず反射でくしゃみが出る。もこもこしたジャンパーも着てきたはずなのに、やっぱり外は寒い。ぎゅっと自分を抱き締めて縮こまっていると、不意にふわりと暖かいものが首にかけられた。
前に垂れ下がってきたものはマフラーだ。
誰だろう、と思って振り向くと、見知らぬ男の子が立っていた。
「星、好きなの?」
「分かんない。でもこんないっぱいあるの初めて見た」
「そっか。……あのね、寂しくなったら星空を見上げてごらん」
「なんで?」
「星がその寂しさを埋めてくれるから。君を包み込んでくれるよ」
「ふうん……」
確かにこんなにいっぱいの星を見たら、寂しさなんてどこかに行ってしまいそう。赤と青の星とその間にある三つの並んだ星を眺めて、少し微笑んだ。
「……だけど寒いんだったら無理しない方がいいよ」
「だって星みたいもん」
「…………風邪ひいても知らないよ」
「どうせ病院に戻らなきゃいけないからいいの」
ちょっとだけ睨むと、その男の子は微妙に固まって(多分私の言葉がそうさせたんだと思うけど)、それからふっと溜息をついた。
私の首に引っかけたままのマフラーをぐるぐるとそのまま巻きつけていく。
なぜそうされるのかが分からずにぽかんとしていると、
「それあげる。病弱なんだったら尚更あったかくしてないと絶対風邪ひくよ」
私の頭をほんのちょっとだけ撫でて、じゃあね、と科学館の中へ消えていった。
不思議な男の子。何がしたかったんだろう。そして、じっと消えていった方を眺めていて気付いた。
……え、ちょっと、ねえ、このマフラーどうすればいいの?