novel・present
□星屑に祈る
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ふっとついた息は白い。
八年前と同じ科学館で、同じ時期にある天体観測会に参加した私は、空を見上げてふたご座を探していた。
十二月はふたご座流星群がよく見えるんだって聞いたけど、本当に見えるんだろうか。
そして隣には微かな希望に託して、持ってきた紙袋。八年前の子に返さなきゃいけないのになあ。
そんなことを考えながら、芝生の上に寝転がって星空を眺めていると、不意に男の子の顔が視界に入った。年齢は同じくらい、かな。覗きこまれてるから、彼の顔は逆さに見える。
……うーん。見たことあるような気がしないでもないけど……まさか、ねえ?
紙袋をちらっと横目で確認し、ちょっとだけ考える。
――ていうかずっと見られてるのは何でだろう。私が話しかけるべきなのかしら?
とりあえず、寝転がったままっていうのは失礼かなと思って、ごめんなさい、起き上がらせてと呟き、上体を起こす。
「……何か御用ですか?」
「いや、この観測会に同年代の子がいるって珍しいなと思って」
「ああ……そういえば」
確かに見回してみても、私と同じくらいの年齢の子は彼以外に見当たらない。
「君はどうしてこの観測会に来たの?」
訊ねられて、正直に自分の目的を話すべきか迷う。
一番の目的は、あの男の子にマフラーを返すため。手掛かりはないけど。
何て言おう……。
「ええと、寂しくなったから……?」
「何で疑問形」
「なんか……昔寂しくなったら星空を見上げてごらんって言われたのを思い出して。ちょっと眺めてみようかと」
そう言いながら彼の顔を見ると、整った眉をほんの少し上げて、驚いたような顔をしていた。
「……それ、誰から聞いたの」
……もしかして。
「八年前、この天体観測会で。マフラーを巻いてくれた男の子に」
これ、と隣の紙袋からあのマフラーを取り出す。そしてまた彼の表情を確認した。
……なんとなく、予想がついた。――彼はきっとあの男の子だと思う、たぶん。
だって、本当に目を見開いて、さっきよりも驚いたような顔をしてるんだもの。
真っ暗な夜空に浮かぶ星。そのふたご座の方向から一筋、光が流れ落ちた。
fin.