めろでぃ!!

□#7 嫉妬
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俺、鏡夜は廃ビルへの道を走っていた。体中汗だくになっていて、気分も悪くなってきたが足を止める訳にはいかない。

「見えた!」

廃ビルが見えてきた。チンピラ風な男が複数人、唯らしき人物と共に廃ビルに入っていく。唯を誘拐しやがったのは1人じゃなかったみたいだ。
しかし、あいつらが今ビルに着いたってことは、移動中に俺に電話をかけたということだろうか?
いや、そんなことはどうでも良い。唯がまだ無事であることが確認出来たのだからそれで十分だ。
俺は唯を助けるべく、勢い良くビルに飛び込んだ。

「よォ誘拐犯共! “いただきます”はまだみてェだな!」

「はあっ!? アイツ来るの早すぎだろ! これからお楽しみだってのに!」

「鏡夜くん! 助けて!」

中にはほとんど何も無かった。隅にいくつか使用用途不明の使われていない機械類が置いてあるくらいだ。
唯はその機械類の1つに手首を縛り付けられている。

「9人か……。ったく、誰かと思ったらテメェらかよ」

9人の内の4人には見覚えがあった。以前俺と摩央が一緒にいたときに突っかかってきたチンピラとそのお仲間だ。仲間を集めて俺にリベンジでもする気なのか。さっきの電話もこの4人の中の誰かと考えて間違い無いな。

「鏡夜クンよ。前回はちょっと油断しただけなんだわ。今回は負けねえぜ?」

自信たっぷりに言われたが人数がいれば勝てるとでも思っているのか? 哀れなクズ共が。

「“多勢に無勢”って諺(コトワザ)の間違いを証明してやンよ」

「やってみろや! 行くぞコラァ!」

バカが2匹突っ込んできた。カッコイイと思ったのか逃げ場を無くしてやろうと思ったのか、俺の左右から鉄パイプを同時に振りかぶる。上から振り下ろせば良いのに2本の鉄パイプが丁度俺を挟む形になる。ハサミのように。
愚の骨頂、愚者の極みだ。
当たれば痛いだろうから俺はしゃがんで鉄パイプを避ける。
本来俺に当たるはずだった2本の鉄パイプは空を切るばかりでなく勢い余って隣にいる己の仲間に直撃。「ぐむっ!?」「うぇっ!!」とバカ2人が同時に呻き、パタリと倒れた。

「まさかとは思うが……テメェら全員がこのレベルの雑魚じゃァねェよな?」

「抜かせゴミクズが! テメェこの人数に敵うとでも思ってんのか!? ああ!?」

倉庫の中に散っていた残りの7人が突撃してきた。これだけの人数が一点に集中したら動きづらいだろうに。
1人が勢いに任せてタックルをかまそうとしてきた。目の前からそんなことをされても簡単に避けられる。

「バカかテメェは」

タックルをさっと避けるといつの間にか目の前まで来ていたチンピラがバールを構えていた。避けられないと感じた俺は殴られる前にバール男の鳩尾(ミゾオチ)に拳を突き立てる。バール男が目を見開き呻く。鈍い感覚が俺の拳を包み込んだ。
次いでタックル男が果敢に殴りかかってきたが拳を突き出す前に鳩尾を蹴るとすぐに沈んだ。

「いい気になんなよ!? 鏡夜クンよぉ!!」

次はナイフ野郎と鎖を振り回すバカが同時にそれぞれの武器を振る。コイツらもバカだな。

「テメェそンな隙だらけでナイフなンざ扱えねェだろ?」

「おわっ?」

ナイフ野郎の手首を掴み、引き寄せる。直後、鎖男の振り回す短めの鎖がナイフ野郎の顔面を崩壊させた。鎖が頬骨だか頭蓋骨だかに当たったこんっ! という音が生々しい。

「いっ!? 痛ぇ!」

「やべっゴメン!」

「なァにが『やべっ』だよ」

お仲間の顔面をメタメタにしてビビったのか鎖男が焦りの表情を浮かべ狼狽(ウロタ)えている。俺は無防備になっている鎖男にアッパーをガツンと決める。鎖を振り回されると危ないからな。
さて、これで残りは4人だ。
もっと苦戦するかと思ったが案外楽勝だ。チンピラ共は予想以上の雑魚のようだ。

「ひっヒロちゃん!? アイツやべぇぞ!?」

「何ビビってんだよ! まだ4人残ってんだぞ!?」

4人は立ち止まり、俺には近付こうとしない。出方を伺っているのかビビっているのか。

「オイオイ。テメェらこれで終わりかよ? ならさっさと唯を放せや三下共」

「はっ。ふざけんな」

「そこのマヌケ共と一緒にしてっと痛ぇ目見るぞコラ」

額に汗を浮かべながらも、チンピラ共は口々に俺を挑発する。なるほど度胸だけはあるようだな。よく見ると手にした得物も上等な物ばかりだ。
1人はゴツいナックル。1人は軍用のナイフ。1人は金属製トンファー。1人はヌンチャク。こちらも金属製に見える。
そこらに落ちていた物を拾った訳を拾った訳では無さそうだ。ちなみにトンファーというのは沖縄の古武術に用いられる武器で長さおよそ45センチの棒に垂直にグリップとなる棒が付いている。2本で1組だ。

「イイ武器使ってンなァテメェら。でも、使いこなせンのか?」

「ふ、はは……ナメんなァ!!」

ナックル君がボクシングの構えで向かってくる。そして殴られたら骨折くらいはするであろうパンチを繰り出す。
俺はその殺人パンチをスレスレで避け、バックステップで距離を取る。

「俺達も忘れんなよ?」

ナックル君が連続で拳を飛ばし、俺はスレスレで避ける。それで精一杯だというのに俺の後ろにはトンファーが待ち構えていた。ヌンチャク男と軍用ナイフ男は構えてはいるものの傍観の姿勢をとっている。ナックルとトンファー、2人で挟んでいたら自分達が邪魔になると理解している。コイツら言う通り、さっきのマヌケ共よりはアタマの回る奴らだ。

「食らえや!」

ナックル君の拳を避けてバランスを崩しかけている時を狙ってトンファーが俺の後頭部を捉えようとする。

「あっぶねェ!」

身体を捻り、無理な姿勢になりながらも俺は突き出されたトンファーを掴む。無理やり攻撃の軌道をずらすと運の良いことにトンファーの先がいつの間にか突き出されていたナックル君の拳に直撃し、ナックル君が怯んだ。そればかりかトンファーもバランスを崩している。
この隙を逃す訳にはいかない。掴んだトンファー男の腕を思い切り俺の身体に引き寄せ、勢い良く近付くトンファー男の鳩尾(ミゾオチ)目掛けて膝を叩き込んだ。ついでにトンファーの1本を奪い取る。軍用ナイフ男とヌンチャク野郎は慌てて助太刀に入るがもう遅い。
体制を立て直し右ストレートを繰り出してきたナックル君の拳をトンファーで牽制し、逆に俺が右ストレートをナックル君の顔面にかましてやった。

「緒方!佐野っち!」

トンファー男とナックル君の本名であろう名前を叫びながら走り寄ってくる軍用ナイフ男にトンファーを投げつける。怯んだ隙にヌンチャク野郎に向かって俺は走る。

「あ!? こっちか!?」

「反応遅ェぞ!」

驚いて立ち止まったヌンチャク野郎にエルボータックルを見舞う。タックルの要領で勢いのついた肘は上手くヌンチャク野郎の脇腹に入った。肘から伝わる感覚を考えると肋骨が1本イったかも知れない。「か……く……」と苦しそうに倒れるヌンチャク野郎を見て骨折を確信した。マズい。やり過ぎた……。

「潮風鏡夜ァ!」

名前を呼ばれ振り返ると鼻血を吹き出しながら飛び込んでくるナックル君の姿があった。今気付いたがあの鼻折れてるのか?
ナックル君は顔面に拳を入れられて頭に血が上っているようで、最早暴れ回るだけだ。先程は苦戦したがこの状態なら軽くあしらえるだろう。しかし、問題が1つ。
ヒロちゃんと呼ばれた軍用ナイフ男だ。ナックル君が暴走して俺に拳を飛ばすと避けた先にナイフを突き出すのだ。
ナックル君のパンチ自体は難無くかわせるが、このナイフが厄介だ。ならば先にナックル君を潰そうとすると軍用ナイフ男が邪魔をする。
上手く暴走ナックル君を使っている。

「死ねぇぇぇ!!」

「危ねェ!?」

「そこ!」

俺の首筋に直進してくるナイフ。足がもつれて避けきれない。

「勝った!」

しかし、俺は死にやしない。ナイフを避けられない、という確信が軍用ナイフ男の慢心を生んだのだ。首にナイフが突き刺さるその瞬間、俺は辛うじて頭を後ろに引く。ナイフは俺の首筋に小さな切り傷を作りそのまま通り過ぎていく。

「避けやがった!?」

「勝利の確信が早かったな。ヒロちゃん?」

軍用ナイフ男の伸び切った腕を掴み、俺は仰向けに倒れ込む。巴投げの要領で軍用ナイフ男を投げ飛ばした。軍用ナイフ男とナックル君の頭と頭がガツンとぶつかり、2人共気を失った。
これで、全員片付いた訳だ。

「鏡夜くん! 危ない!」

唯が叫んだ。いつ目を覚ましたのだろう? 最初に自爆した鉄パイプの1人が俺の後ろでパイプを振りかぶっていた。

「なっ……!」

回避不能だった。俺が鉄パイプを認識したその直後にパイプが振り下ろされた。
反射神経が追い付かず、俺はただ目を閉じることしか出来なかった。視界が真っ暗になり、鈍い音が響いた。
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