めろでぃ!!
□#7 嫉妬
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「摩央ちゃんが来るなんて思わなかったよね」
「うん。つか部外者がすんなり入れる学校ってどうよ?」
部活が終わってから俺と唯は俺の家に直行した。唯の妹、憂ちゃんが家に不在で暇らしいのだ。
俺はいつものように唯とリビングにいる。
「今日も暑いねぇ」
唯がソファーでぐて〜んとうなだれいる。エアコンをつけたいところだが唯はクーラーに弱いので除湿のみの設定で稼働させた。
俺は観葉植物に水をやってから飲み物を用意する。部活でお茶した直後に再びティータイムだが、唯曰わく「優人くんちのお茶は別腹なんだよっ」とのことだ。
「つーか唯、昼飯は?」
リビングに入ってきた飼い猫のココを見つけ、愛でだした唯に問うと――。
「あ、忘れてたぁ!」
とことん間抜けな奴だった。
ココと戯れながら眉毛をハの字にしている。
俺は一人暮らしのような生活をおくっている為、一応料理は出来る。しかし、その料理は人に振る舞えるレベルかと問われるとイマイチ自信がない。唯は妹に家事を任せっきりなので当然料理など出来やしない。
自分の飯は自分でどうにかしやがれという話だが、まさか唯を放っておく訳にもいくまい。俺は唯に提案する。
「じゃあどっかに食いに行こう」
「よーし! そうしよう!」
快く承諾された。個人的にはぶっちゃけデート気分である。
実際デートなハズも無く、近場のファミレスで食事を摂ることになった俺達。そこで予想外の人物達と遭遇することになるのだが、当然この時の俺達は知らなかった。
熱気漂う外の世界を歩きやってきたファミレスの中に入るとひんやりとした空気が肌に感じられ、灼熱の外界と切り離された気分になる。まるで極楽浄土だ。
ファミレスの空調ということは当然業務用の空調機を使っているし、設定温度も高めだろう。唯が体調を崩すことも無さそうだ。
店員に案内されてテーブルにつくと唯が速攻でイチゴパフェを注文した。余程外が暑かったと見えるが……頼むからパフェは食後にしてくれ。
「んー! 美味しい〜!」
パフェをぱくついてまるで水を得た魚のように復活した唯。目がキラッキラである。普通に可愛い。一緒に来て正解だと思った。
「優人くんも食べなよ。ほら! あ〜ん!」
「え」
なんだか本当にデートのように思えてきた。目の前に差し出されたスプーンはよく見ると柄が長く、カップル用であることが分かる。
もしかしたら俺達は、端から見たら恋人同士に見えるのだろうか?
そんなことを考えながら俺はパフェを口にした。イチゴの甘酸っぱさとアイスのマイルドな甘味が程よく混ざり合って絶妙なバランスで口の中に溶けた。顔を上げると唯がニコニコと笑っている。断言しても良いが、どこからどう見てもカレカノだ。
「どうっ? 美味しいよね!」
「めっちゃ美味い」
笑い合う2人。
知り合いに見られたらいろいろと説明が面倒だと思うやいなや――。
「お前ら絶対デキてるだろ」
「現場は押さえたから、言い逃れは出来ないよ?」
すぐ後ろのテーブルに知り合いがいた。水泳部の伊吹涼と、同じく水泳部の村瀬志乃。2人で食事を摂っているところを見るとデートでもしていたのだろうか?
夏休みだからイチャつき放題って訳ですかコラ。これだからリア充は嫌なんだよ。
「おはよ、唯ちゃん」
「志乃ちゃん! おはよー!」
もう昼なのだが。
つか唯と村瀬に接点なんかあったか?
「なあ涼? 唯と村瀬って仲良いの?」
「平沢の場合志乃っつーかクラスの女子全員と仲良いな。ある意味カリスマだぞ」
「マジ? うわ、でも唯らしいな」
「優人はホントにクラス事情に疎いよな」
ファミレス内にも関わらず盛り上がる女子2人を尻目に見ながら涼は完全にジト目で言った。
「あれ? そういえば優人くんって志乃ちゃん達と仲良いけど、なんで? 優人くんってあんまり教室で喋らないよね?」
「唯ちゃん知らないの? 神風君、たまに水泳部の練習に参加してるんだよ?」
「それは知ってるけど、その前だよ」
唯は何故俺が水泳部の練習に参加出来るくらいに涼や村瀬と仲が良くなったのかと訊きたいのだろう。
「涼と村瀬の名前だよ」
「へ? 名前?」
「俺が中学の時水泳部だったって話覚えてる? その水泳部に伊吹涼と村瀬志乃ってカップルがいたんだよ。顔とかは全然違うけど、性格がそこの涼達にそっくりだし、色々共通点が多くてさ」
「で、いつの間にやら接点を持ち始めた訳だ」
「にしてもすごい偶然だよね」
俺が説明すると涼が補足してくれた。村瀬は単に感想を漏らしただけだ。
「そうなんだ!? 同じ名前の人が?」
「うん。良い奴らだったぞ」
本当に良い奴らだった。
あいつ等がいなければ、俺は今頃……廃人になっていたかも知れないのだから。
「どんな奴らだったんだ? 俺じゃない涼とコイツじゃない志乃は」
興味があるのか無いのか分からないような素振りだった。
「……何にでも首突っ込む奴らだったなあ」
「そいつらホントに俺らみたいな性格だったのかよ? 少なくとも俺とコイツは自分から厄介事には関わらないぞ?」
「だいたいそんな感じだよ。お前も似たようなもんだし」
「マジ?」
疑問符を頭の上に浮かべて涼は村瀬の方を向く。村瀬は「自分で気付かなかったの?」と言わんばかりの呆れ顔でコクリと頷いた。
言っておきますけど村瀬さん、あんたも同じですからね? この前もなんか変な事件に首突っ込んでんの見ましたからね?
「さて、これ以上優人と平沢の邪魔してらんないし、志乃、そろそろ出ようか」
「そうだね。じゃあね、2人とも」
だから違うっつの。
言っても無駄だろうから心の中で呟いただけだった。
というか俺が否定しなくても唯が顔を真っ赤にしながら必死に誤解を解こうとしている。実際、涼も村瀬も微塵も信じていないように見えるがこいつらは余計なことをベラベラと言い触らしたりはしない奴らだから信じてもらう必要も特に無い。
「わ、私達付き合ってないよぉ〜!」
「はいはい分かったから。じゃあね唯ちゃん」
「信じてよ志乃ちゃ〜ん!」
そこまで必死に否定しなくても良いじゃんかよ……。
ふとテーブルを見ると半分以上残ったパフェが溶け始めていた。