めろでぃ!!
□#7 嫉妬
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結局、溶けかけのパフェだけを食べて俺達は店を出た。唯の頼んだパフェは予想以上の大きさだったのだ。
「ごめんね優人くん。ちゃんとしたご飯食べたかったよね?」
「ん、いや、大丈夫。パフェ美味かったしな」
「そう? それなら良かった。なんだか優人くん、しょんぼりしてたみたいだったから」
相変わらず妙なところで鋭い。しかし、しょんぼりしているその理由は間違っている。
事実ではあるが交際をあんなに必死に否定しなくても良いと思ったのだ。それが理由だ。
「あ、やべぇ」
「どうしたの?」
「つ、冷たい物食べたら腹が……。唯、先に俺んちに戻ってなよ」
唯は「待ってるよ」と言ってくれたが俺は唯に家の鍵を渡しておいた。
すぐそこに小さなデパートがある。そこのを借りよう。
数分後俺がデパートを出るとそこには唯はいなかった。鍵を渡しておいたからやはり先に戻ったのだろうか?
まあ、それならそれで良い。俺もさっさと帰ることにしよう。
「ったく。摩央、テメェ今日も泊まるつもりかよ?」
「まあね」
俺、潮風鏡夜は義妹の摩央と喫茶店に来ていた。
一昨日から摩央は俺のマンションに泊まり込んでいるが、まだ泊まる気らしい。俺という名の財布をもっと使いたいのだろう。迷惑な話だ。
「まァ別にイイけどよ」
「さすがお兄ちゃん! 太っ腹だねぇ!」
「何バカなこと言ってやがンだっつの。つーか――。お、悪ィ。電話だ」
「誰から?」
「登録されてねェ番号だな……」
取り敢えず通話ボタンを押した。
俺が何か喋るより早く相手側から声がした。
『始めまして鏡夜クン! いや、“始めまして”は変だな。よオ、テメェ俺を覚えてるか?』
「ア? 誰だテメェ? 俺になンか用でもあンのか?」
『ハッ。用って程でもないんだけど? テメェの可愛い可愛い茶髪の彼女を預かってまーす! って電話だよ。クヒヒ!』
「彼女だァ? 何の話してやがンだ? つーか笑い方がキモいンだよ三下が」
『またまたぁ! とぼけちゃってぇ! あ、もう1つ教えといてやるよ。テメェの彼女、前髪の長ぇ男と楽しそうに歩いてたぜ? どっちが浮気されてんのかなあ? にしても可愛い顔して二股とか無ェわこの女』
「前髪?」
俺の周りで前髪が長い奴と言えば……。まさか優人のヤロォか? つーことは優人といつも一緒にいる唯がコイツに誘拐された?
『この天然なフリしたビッチを助けたかったら4丁目の廃ビルに来いや。あ、テメェが来るまで暇だし、この女食べてて良い? どうせもう色んな奴らとヤッてそうだし』
「おいテメェ! 待て!」
ブチリ、と一方的に切られた。
「お、お兄ちゃん?」
摩央が怯えたような表情で俺を見ている。ふと我に返り辺りを見回すと店内の視線が俺に集中していた。声が大きかったようだ。
「摩央、詳しくは後で話す。唯が4丁目の廃ビルに捕まってる。すぐ行かねェとならねェから先に帰ってろ」
「え!? 唯さんが!? ちょっとどういうこと!?」
俺は「帰ってから説明する」とだけ言って摩央に財布を投げ渡した。支払いは摩央に任せて俺は全力疾走する。
4丁目の廃ビルといえば1つしか無い。ここからならタクシーを使うより走った方が遥かに早い。
俺こと神風優人は小走りに家へと向かう。しかし、おかしい。俺がデパートに入ってから出てくるまでそう時間はかからなかった。このスピードならとっくに唯に追い付いているはずだが……。
「おっかしいなぁ」
もしかしたら気づかぬ間に追い越してしまったのかも知れない。街中は夏休みの為かいつもより人が多かったから。
少し走る速度を緩めたその時、ポケットの中の携帯が振動した。唯かと思ったが発信者は摩央ちゃんだった。
「もしもし?」
『あ、あの! 唯さんが誘拐されて! お兄ちゃんがなんか喫茶店で大きな声を出して! お兄ちゃんがビルに!』
「ちょっ、落ち着いて! 唯がどうしたんだ? 誘拐?」
何があったのか慌てる摩央ちゃんを必死に落ち着かせて事情を訊いたがそれでもいまいち要領を得ない。分かったことは唯が4丁目の廃ビルに捕まっているということと、鏡夜が唯を助けに行ったことだけだ。しかし、それだけ分かれば十分だ。俺は踵を返し廃ビルへと足を向けた。