夢の記憶
□第八話
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本当はもっと早く言おうとしていたの。
でも、体調を崩してこじらせていたから、なかなか言い出せなくてね。
そういってから始まった母さんの話。
それは父さんの転勤が決まったため、そちらに引越しをしたい、というものだった。
どうやら父さんの仕事上、転勤が多いのが通常らしい。むしろ今までここに住んでいられたのは珍しいようだ。
「お祖父ちゃんとお祖母ちゃんはここに残るって。だから蒼乃もこのまま、こっちに居てもいいの」
静かなリビングには二人きりで。
だけどね、と母さんの話は続いていった。
「できれば、蒼乃には母さんたちの傍に居てほしいの。やっぱり、心配なの」
その言葉には私のひどい風邪のこと、そして近しい友人であった斉木のケガのこともきっと含まれているだろう。
「どこに引っ越すの?」
「神奈川よ。そうね、ケンちゃんの家と同じ市になりそうなの」
『神奈川』『ケンちゃん』
あぁ、その単語だけでもう充分だよ。
だって、どっちみち原作すれすれの生活になるじゃない。
神奈川はシュートの最終章で舞台になるし。
それにケンちゃん――私の従弟は、後に神奈川代表のレギュラーになるんだから。
こういうのを補正って言うのかな。
こんなことがこの先も、ついて回るのかな。
あぁ、なんだか疲れた。