夢の記憶
□第七話
1ページ/5ページ
気がつけば走り出していた。
早く、早くまこ兄に会いに行かなきゃ。たしかめなきゃ。事故ってそんな、嘘だよ。だって、そんな話聞いたことない。
そうだ、そんな話原作になかった――
原作が、壊れた?
「蒼乃ちゃん!!」
グイっと強い力で腕を引かれ、ハッと気付く。
私の腕を引いている久保くんは、ずぶ濡れでひどく息を切らしていた。
「蒼乃ちゃん、よ、よかった、追い付いた。いっかい、ハァ、戻ろう。そのままじゃ良くないよ」
そう言われ、初めて気付く。私は裸足で、薄着で、傘も差していなかった。
バチバチと音を立てて顔にあたる雨粒が痛くて、うまく息がすえない。
それでも、そんなことどうでもよかった。
「……離して」
「ちょ、ダメだよ!」
振り払った腕が再び捕まる。瞬間、何かが切れた気がした。
「離して!早く行かなきゃ、まこ兄が、まこ兄が!!いやだ、そんなの絶対ヤダ。私のせいだ、だから行かなきゃ!」
「蒼乃ちゃん?落ち着いてよ、ねぇ!」
「そんな暇ないよ!!手遅れになっちゃダメなの。すぐに行って、もう関わらないって約束するからっ」
そうだ、約束する。
もう近づかないよ、久保くんにも斉木くんにも。もちろん、他のキャラクターにも。
だからお願い、二人を傷つけないで。誰の邪魔にもならないようにするから、原作を壊さないで……。
「いい加減にしなさい、蒼乃!」
ビクリ、とからだが揺れた。