コルダ
□その裏切りは誰が為に
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神南高校には、「名物カップル」と呼ばれる二人が居る。
どちらも、申し分ないお金持ち。そして婚約関係を結んでいるという。
ただ、仲がいいかどうかと問われたら――ある者は即座に頷き、ある者は首を傾げる。
何故なら、三日に一回の割合で、彼らは朝から言い合いをしているのだ。
「どうしてあなたまで電車を使うんですか、千秋さん」
「お前が車は嫌だと言うから、仕方ないだろう」
「当たり前です! リムジンで送迎なんて、目立つ上に顔が知られてしまうじゃないですか!」
「いや、お前もう有名だぞ? 紫音」
通勤・通学ラッシュの時間帯で、ここまで見事に騒げるカップルもまず居まい。
当然ながら、周囲の視線は彼らに釘付けだ。
「私は普通の通学手段を使いたいだけなのに……」
「お前を一人にするわけにはいかねえ」
「そうでしょうね。婚約を公にした事で、私はあなたのファンにこれまで以上に目を付けられてしまいましたから」
彼の思惑は、彼女との関係を周囲に知らしめ、何かあったら黙っていないからな、という警告だ。
彼女も頭では分かっているだろう。そこまで馬鹿ではないからだ。
事実、今の言い方に当人は何かをまずいと感じたのか、一瞬口をつぐみ、少しだけ辛そうな目を伏せる。
「……すみません。あなたのせいでは、ないです」
「その言い方をするってことは、また何かあったな?」
「逐一、報告するような事ではありません」
彼女の悪い癖、とも言える、彼を巻き込まないような言葉の遣い方。
それで危険な目に何度も遭っていながら、彼女は彼が悪くないと断言しては、こうして一人で抱え込んでしまうのだ。
当然ながら、彼はそんな事を良しとはしない。
「……つまり、犯人が特定できねえんだな」
「最近、あなたは探偵なのかと疑問が生じています」
「これまでの情報とお前の発言から推測する事くらいは簡単だ。お前は俺を騙そうとはしてねえだろうが」
「…………そこで少し引いて、様子見で留めて下さると助かります」
手を出すな、と言外に告げる彼女の手を引き、来た電車に彼は引っ張っていく。
自分も慌ててそれを追った。これを逃すと少し遅れてしまう。
目的地が同じである以上、乗らないわけにいかなかった。