□一夜の約束【甘】*
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「その着物だって、高そうな女物だ。金がなきゃ買えないだろう?」


「別に俺は‥金持ちでも何でもねーよ」


「え‥?」


「この着物は‥俺の商売道具だ。」




着ていた着物の衿元をぐいっと開けると、その白に咲くのは無数の赤い花。


それを目の当たりにした浜田さんの首筋に吸い付くと、俺と同じ赤の斑点模様を付ける。




「同業者‥ねぇ‥。」


「浜田さんは‥男とするの、初めて‥?」


「‥いや、何度か肌を重ねたことはあるよ。だけど‥流石にそんな所を弄られた事は無いな。」




じゃあ‥俺が初めてか。


気を良くした俺は、浜田さんの後ろへと手を伸ばし指を入れようとした。


だけどその腕は呆気なく掴まれてしまう。




「ちょっと‥何すんだ‥」


「孝介‥女としたこと無いんだろ?」


「っ‥だったら‥なんだよ‥」


「俺がその童貞を喰うのも良いんだけど‥やっぱり、その味を知りたいんだよなぁ‥」


「あっ‥やっ、え‥!?」




圧倒的な力の差で、俺は意図も簡単に浜田さんの下になってしまった。


浜田さんが舌を唇に這わす姿はとても妖艶で、思わず息を呑む。



こんなに綺麗な人を‥俺は他に知らない。




「此処には‥一体何人のモノを喰わえたの?」


「っ‥や、やだっ‥やめろっ‥!」


「こっちの口も‥一体何人のモノを喰わえたのかな‥?」




着物の上からも下からも手を這わされ、その触り方に背筋がピンッと張り詰める。


俺がこの職業を通じて感じ易いのもあるかもしれないけど‥確実に感じる所を突いて来る。



この人は、一体何人の人と寝たことがあるのだろう?


何回、見知らぬ他人と肌を重ねたことがあるのだろう?




「男娼でも二つの種類がある‥女を客に取るか、男を客に取るかだ。」


「っ‥はぁっ‥あ、あっ‥ンッ‥!」


「俺は前者で、君は後者‥そしてその中でも抱かれる側だ。」


「あ‥っ‥はぁ‥あぁっ‥いや、っ‥だっ‥!あ、ンッ‥!」


「何故‥俺を抱こうとしたんだ?」




以前、俺の働いている店に女が来た。

普段は男しか出入りしないその店に女が来ると言うことは、そりゃもう天から槍が降って来るんじゃないかと思うくらいの出来事だった。


その女はあろうことか俺を指名し、そしてそれは俺が何年も商売をして来た中で初めての出来事で‥正直驚いた。



俺が金としているのは、俺を抱きたいと言う男だけだった。


当然、女を抱く知識なんてものも無く‥俺はその日、客に対してとても失礼な事をしてしまったのだ。
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