□一夜の約束【甘】*
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「そういえば‥まだ名を伺っていませんでした。‥聞いても構いませんか?」


「何故‥男だと分かった‥?」


「あぁ、やはり殿方‥。いや、その身なりからすると‥良いとこ育ちのお坊ちゃんかな?」




クスクスと笑いながら浜田さんはキセルに葉を詰め、火を付けた。


ふぅと吐き出した煙を吸ってしまい、思わず咽せ返る。



俺の客も葉を吸うことはあるが‥この煙は慣れないものがある。




「‥餓鬼が来て良い所じゃ無いぞ。遊郭は‥」


「子供じゃない!俺には泉孝介と言う名がある‥それに俺はもう十六だ!」


「ふーん‥そうか。それで孝介は‥俺を抱きに来たわけか。」


「おい‥仮にも客だぞ?呼び捨てって‥どーなんだよ‥」




もっと気品がある人かと思っていたのに、その想像は脆くも崩れて去っていた。


客を呼び捨てにするわ、言葉使いは男っぽくて敬語も使わない。



何故こんな奴が買われるんだろう?




「俺のこういう性格が人気あるんだよね」


「‥‥なんで‥」


「名前も呼び捨てで敬語も使わない‥まるで恋人みたいだろう?」


「あ‥」




確かに女から見れば、それは魅力のあることなのかも知れない。


飢えた女が求めるのは愛だ。


その愛を一番楽な形で与えてやる。



それが‥浜田良郎のやり方。




「俺を抱きに来たんだっけ?」


「そうだ!買ったからにはきっちりさせて貰う‥」


「いつも攻める側だけだから‥受け側はあまり得意じゃない。」




不意にそんなことを口にする。


確かにそうだ。


いつも女を相手にしている奴が受けるなんて、そうそう無い事だろう。




「俺だって攻めなきゃ意味がないんだ!‥金は払った。良いから‥犯らせろよ」


「ねぇ‥時間はまだ有るんだし、先ずはゆっくり話でも‥」


「犯りに来ただけだ。良いから早く‥」


「あきまへんな‥こんな坊主に。‥痛くしないで下さいよ?」




既に敷かれていた布団に浜田さんが横たわり、俺はその上から覆いかぶさるようにしてキスをした。


唾液が混ざり合う感触や、漂うお香の甘い匂い。


遊郭では良くある情景だ。




「なんで孝介は‥男を抱きたいんだ?」


「‥人の嗜好にケチ付けるのか?」


「いや、そうじゃない。だけど‥女とした経験くらいあるだろう?」


「っ‥!」




女とした経験なんて無い。



俺が此処に来た理由。

家に金が無くて親に売られ、物心付く頃には男娼として働くようになっていた。


別にこの仕事が嫌な訳ではない。


寧ろこれが俺の生き方‥人生であって運命なのだ。
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