□愛は刃を剥くように【シリアス甘】
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「かの有名な夏目漱石は“I Love you”と言う言葉を“月が綺麗ですね”と訳したそうだ」


「それ‥遠回し過ぎねぇ?」




浜田がいきなりそんなことを言った。


俺はそれを単純に、遠回しすぎて伝わらないと思った。



女性になら伝わるものなのだろうか?


昔の人の感覚は分からないものだ。




「“わたし、死んでもいいわ”と訳した人も居るんだって」


「‥俺はその解釈は、好きじゃない」


「えーそうかなぁ?素敵だと思うけどなぁ、俺は好き。」


「お前が素敵とか言うな、気持ち悪い」


「えー?泉、酷ーい」


「死んだら‥二度と会えなくなるだろ?そんなの意味ねーよ」


「‥でも、それだけ愛してるってことでしょ?」




浜田のその感覚は、俺には理解出来なかった。


愛してるのに死んでしまったら、本当に意味がないと思う。



好きな人が死んでしまって、残された方は‥一体どうすれば良いんだ。




「今の日本語訳は“私は貴方が好き”だよね」


「“愛してる”とも訳したりするな。」


「‥ねぇ、もし泉が“I Love you”を訳したらどうなる?」


「は‥?」




そんなこと、考えもしなかった。


溢れんばかりの愛の言葉。


俺達には無縁のようなその言葉を、俺にどうしろと言うのだろう。




「泉の“I Love you”を‥俺にちょうだい?」


「そん、なこと‥言われても‥‥」




俺は浜田の事を考えながら口ごもってしまう。



俺が‥浜田にしたいこと。


好き、愛してるの言葉じゃ安すぎて‥そんなんじゃ、この気持ちは言い表せなくて。




「“お前を束縛したい”」


「それが‥泉の“I Love you”?」


「今の俺の考えに、一番近いやつな」


「そっかぁ‥泉は俺を束縛したいほど愛しているのか!」




自己解決したように浜田は頬を緩ませる。


所詮は独占欲の固まりみたいな言葉なだけだけど。



浜田は俺のそんな言葉一つで喜んでくれた。




「‥そういうお前はどうなんだよ?」


「ん、俺‥?」


「俺ばっかに言わせるのは狡いだろ。お前も教えろよ。」


「うーん‥」




どうせ浜田の言うことだ。


“大好き”とか“愛してる”とか、そのままの表現で俺を抱きしめる‥。



もしくはそのまま“泉”と言われそうだ。


この言葉を使う相手は俺だけだからとか、訳の分からない事を言って。



そんなことを言ったら、照れ隠しに浜田をぶん殴ってやる。




「“貴方を殺したい”」


「‥え?」


「貴方を殺したいほどに‥。それくらい好きだよ。泉‥」




予想外の答えに、俺は目が点になった。


殺したいくらいに‥愛してる。



嗚呼、でもその考えなら‥俺にも理解出来る気がした。




「浜田になら‥別に良いかな‥」


「殺してしまえば‥泉は永遠に俺の物になるだろ‥?」


「あぁ‥俺もそう思う。」





“殺したい”と言う言葉は“束縛したい”と言った俺の延長戦にある言葉に過ぎない。


でも好きだからこそ、そんなことが出来ないのを俺は知っている。




「愛してる、泉‥」


「俺も‥殺したいくらいに‥」




愛とはやがて、刃を剥くように。


貴方を殺せないのなら、嫌と言うほどに愛してあげる。



愛の言葉で、貴方を殺してあげる。



なぁ‥それって、凄く幸せな事だろ?




fin.



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