黒バス

□電話越しの表情【甘】
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その相手に、俺は目を疑った。




「え‥?」




滅多に電話が来ない相手から電話が来ていた。



俺はと言うと、その時は丁度仕事中で。


なんでそんな大切な人からの電話を取れなかったのかという事に後悔した。



後悔しても時間は戻って来ない。



仕事の衣装もそのままに、俺は携帯の通話ボタンへと指を滑らす。




「なんでこんな時に電話なんすかぁ‥」




ふと時計を見ると、着信があってからとうに3時間が経過していた。


時刻はもう10時を回っている。



あぁ‥明日も朝練がある。



そんなことが頭をよぎった。




「‥んー‥、もう‥‥寝ちゃったんすかね‥‥。」




何コールしても一向に出てくれる気配が無い。


諦めて通話を終了しようとしたとき、その電話の持ち主の声が聞こえた。




「‥‥はい」


「くっ、黒子っち!」


「ふぁぁ‥どうしたんですか、黄瀬君‥」


「どうしたんですかじゃないっすよー!俺に電話くれたでしょ?」


「‥‥‥あぁ‥」




今思い出したと言うように、間を置いて返事をする。


やっぱりそんな大した用事でもなさそうだったことに、俺はがっくりと肩を落とした。



俺は黒子っちにとって、その程度の存在ってことっすよね‥。




「そういえば電話しました」


「まったく‥しっかりして欲しいっすよー」


「すいません、寝惚けてました」





寝起きの黒子っちは少し声が掠れてて、いつもとは違った雰囲気を醸し出している。


なんだかその声が妙に色っぽかった。



ドキドキしながらその声を聞き、そういえば黒子っちの用件はなんだったんだろうと言葉を口にする。




「起こしちゃってごめんなさいっス。‥で、用事って言うのは‥?」


「‥え、あ‥あぁ‥‥別に大したこと無いんです。」


「大したことあるっす!黒子っちが俺に電話かけて来るなんて大したことっスよ!」


「‥‥‥」




少し声のボリュームが上がり、それに黒子っちが押し黙る。


しんとした空気の中に時計の音だけが響いていた。



その雰囲気に、俺もどうしようと黙り込んでしまう。



しばらくの静寂を断ち切ったのは、黒子っちの方だった。




「‥‥聞いても、笑いませんか?」


「そんな‥笑う訳ないじゃないっすか」




どんな事なのだろう?

黒子っちの事だから、俺は気になって仕方ない。


喋るのがあまり得意じゃなくて、メールもあまり返信してくれない黒子っちが、俺に電話を掛けるということ。


それが何を意味しているのか。

俺は知りたくて知りたくてたまらなかった。




「‥声が、聴きたくなったんです。君の声が‥」


「え‥?」


「こんなこと言わせないでください、恥ずかしいので」




電話越しで、黒子っちの表情が見えなくて。


君が今、どんな顔をしてその言葉を口にしているのか。


それは今すぐにでも会いに行って抱きしめたくなるような言葉だった。




「黒子っち‥」


「‥用件はそれだけです。では‥」


「ま、待ってくださいっス!」




もう少しだけ、話していたい。


今すぐに抱きしめられない分、あともう少しだけ。




「あ、明日は‥その、朝練っスか‥?」


「‥はい。だから‥もう寝ないと‥‥」


「そーなんすか!実は俺も朝練で‥」




あぁ、違うのに!


こんな会話をするんじゃなくて、もっと他の話題で盛り上がれるようにしたかったのに!



でも黒子っちも朝練があるって言ってるし‥早く電話を切らないと黒子っちの迷惑になってしまう。


俺も早く帰って寝ないと、明日の朝練に響いてしまう。



時間が無い。


だから‥電話とか、そういうんじゃなくて‥‥。




「電話じゃなくて‥、その‥‥黒子っちに、会いたいっす‥」


「‥‥いいですよ」


「ほッ‥本当っスか!?」


「はい。‥僕も、黄瀬君に会いたいです」




死ぬかと思った。


ドキドキしすぎて、黒子っちがまさか俺にそんなことを言ってくれるなんて。



そんなことを言われたら‥舞い上がっちゃうじゃないっすか。



いつもの倍は面倒な奴になっちゃうっスよ。




「明日、頑張ってください」


「は、はいっス!明日、楽しみにしてるっス!」


「えぇ、‥では、おやすみなさい。」




プツンと電話が切れて静寂が戻ってくる。


その静寂の中に聞こえるのは、先ほどの時計の音ともうひとつ‥俺の心臓の音だった。



ドキドキと脈打つそれは、時を刻む針よりも早い気がした。




fin.




→あとがき
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