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□過ぎた時間【甘】*
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もうすぐ誕生日。
きっと今年も、あいつは豪華とは言えないような普通のケーキを焼いてくれて。
そんなケーキを作ってすげーだろ、なんて言葉を俺に投げかけて。
誕生日にそんな手作りケーキを作ってくれる事が、俺は何よりも嬉しかった。
真心や愛情、そんなものがたくさん詰まっているようで。
どんな豪華なケーキよりも浜田の作ったケーキが一番良いと思ったんだ。
「ごめん!泉!」
「‥‥」
「忘れていたわけじゃないんだ‥バイトも休んだし、ケーキの材料も買って来てたんだけど‥」
「別に、怒ってねーよ」
「怒ってんじゃん!」
俺の誕生日はとうに過ぎている。
時刻は深夜の1時。
浜田の優しい性格を俺は知っている。
バイトで急病人が出たら、浜田がバイト先まで飛び出して行くのも想定内。
だけど‥何処か納得していない自分が居る。
バイトと俺、どっちが大事なんだなんてセリフは言えねーけど。
誕生日くらい俺の事を優先して欲しかったと‥心の中では思っていたんだと思う。
「もういいから」
「ちょ‥泉!」
「ケーキも明日食べるから‥今は食べたくない」
間に合わせる為に買ってきたであろう、コンビニに置いてある小さな三角形のショートケーキ。
こんなもの、いらない。
俺が欲しいのはお前の手作りケーキの中にある愛情で。
今日は浜田とゆっくり過ごしたかったのに‥もうエロい事する気も失せてしまったしで、今年は最悪な誕生日だと思った。
「‥泉」
「いいから」
「ねぇ‥どうしたら許してくれる?俺、今からなんでもするよ。泉の事、お祝いしたい」
「いいって、浜田もバイトで疲れてんだろ」
「疲れてないって!今からケーキも‥」
「いらないって言ってるだろ!」
自分でもビックリするような大きな声が出た。
言い放った言葉がビリビリと響き、涙が溢れた。
違う、こんなことを言いたいんじゃないのに。
浜田の気持ちは嬉しいのに‥突き放すような言い方をしてしまう。
「は、まだ‥」
「‥泉、ごめんね」
「しかた、ねーだろっ‥んなこと‥」
浜田の腕に包められ、俺は溜まっていた涙を流した。
バイトは浜田にとって大切なもので、バイトがなければ生計が立てられなくて。
俺はその狭間で揺れ動いてしまう。
「バイトが大事なのはわかるし‥浜田がそう言う奴って事も知ってる」
「‥うん」
「でも‥今日は一緒に居たかったんだよ‥。こんな女みてーなめんどくせーこと‥今まで思わなかったのに‥」
好きな人と一緒に居たい。
そう思うのは、間違いだろうか。
いつもあまり一緒に居られない分、誕生日くらいは一緒に居たかった。
自分がこんな女々しい奴だなんて‥思わなかった。