□この心、全部【切甘】
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俺は数日前に失恋した。


告白したら「好きな人が居るから、ごめんね」って。



同じ部活のマネージャーの子で、その後気まずくなるかと思いきや、いつも通りに接してくれて。



とても良い子で、俺の好きだった人。




「‥ごめんね」




今日もその言葉を素直に言えなかった。


失恋のショックで、今日も俺は栄口に当たるような事を言ってしまった。



今まではそんなことなかったのに‥俺は一体どうしたんだろう。


本当は「ありがとう」って、いつでも思ってるのに。



栄口の前では口べたになってしまい、俺の方が少し背も高い。


栄口は俺のこと‥嫌いじゃないかな‥?

好きになって、くれるかな?




「大好き、栄口」




愛したい。

貴方に逢いたい。


今この胸の奥で叫んでるよ。




「もっと‥栄口の近くに行きたい」




愛される明日を夢に見る。


俺を好きになってほしい、そう願う。



もうこの心は全部、栄口に奪われていた。


この心は貴方だけのモノ。









「栄口‥おはよう」


「はよっ!水谷!」


「あの‥昨日は‥その‥、俺が悪かったのに‥」


「‥バカだな。俺は気にしてないよ?」




そうやって笑って許してくれる、優しい君。


そしてちゃんと叱ってくれる、優しい君。




「八つ当たりしてゴメン。上手く行かなくって‥」


「水谷なら大丈夫だよ!また次があるから頑張れ。‥な?」




そう言って本気で励ましてくれる。


俺がフラれてしまった哀しい恋をしてたことを知っているから、栄口は俺に優しくするのかな?




「‥ありがと、栄口」




でも‥それでも大好き。

いつでも栄口に逢いたいと願う。


大好きすぎて、眠れない夜には終わらない祈りをする。



恋人になったら‥お喋りしたり、手を繋いだり。



あぁ今夜、もしも夢で逢えたら。


嬉し過ぎて、泣ちゃうかも。









俺がフラれたその日、たまたま栄口が居合わせただけなのかもしれない。


帰ろうと足を進めたとき、最悪な気分の俺の心を表すかのように雨が降ってきた。




「あー‥最悪‥‥、」




今日は降らないって言うから、自転車で来たのに。


フラれたショックで、気付けば俺は雨と一緒にボロボロと涙を零していた。




「‥どうしたの?水谷‥」




そこに現れたのは栄口だった。


なにも答えない俺の隣に座り、ただひたすら時間だけが流れて行く。



俺を安心させるように、ぎゅっと握ってくれた手の温もり。



涙がさらに溢れてしまった。




「‥‥フラれ、ちゃった‥俺‥‥」


「‥‥‥そっか」


「‥うん‥‥」


「‥‥帰ろう?水谷‥」


「‥‥‥うん‥」




同じバス停。


雨の坂道を、ひとつの傘で歩いた。




「水谷、これ」


「‥‥え‥、」


「きっと落ち着くよ。俺のお気に入り。」


「‥ミルクティー‥?」


「あ、そうそう!そーいえば水谷が欲しがってたアルバムが手に入ったんだ!ね、一緒に聴こう?」




お気に入りと言われて貰ったミルクティー、栄口が教えてくれた歌。



そのすべてが暖かくて。


俺はまた泣き出しそうになった。





俺は失恋のショックから立ち直れるかな?


いや、多分次も失恋するって分かってる。



あの痛みをもう一度だなんて、考えただけでもぞっとする。



どっちかが女の子だったら良かったのにな。


そうすれば、こんな風に悩むことも無かったのにな。




「栄口‥」




愛したい、貴方に逢いたい。


今この胸の奥で叫んでるよ。




愛される明日を夢見る。


もうこの心は全部、貴方のモノ。



貴方だけのモノ。




fin.




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