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□俺が惑う日【甘】
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誕生日はその人が産まれたのをお祝いする大切な日。
そんな奇跡みたいな記念日は、いつも俺を惑わせる。
「今年はマフラーと手袋貰ったしな‥」
やっぱり浜田は一人暮らしと言うこともあるし、実用的に使えるものが良いのだろうか?
料理好きだし、鍋敷きとか料理器具とか‥毎日使うような日用品でも良いかもしれない。
確か電動泡立て器とか無かったよな‥買ってやったら喜ぶかな?
あ、でもアイツの家、狭いから置き場所無いかも。
「あー‥どうすっかなー‥」
悩んでも良い物が見つからない。
きっと浜田は俺がプレゼントしたら、なんでも喜んで受け取ってくれるに違いない。
例えそれが、100円の飴やチョコレートだったとしても。
でもどうせ喜んでくれるのだったら一番良い物を送りたい。
悩みに悩んだあげく、俺は毎日使えるようなエプロンとミトンを買った。
「浜田、誕生日おめでとう」
練習で朝から早起きな俺は、まだ日も出てない朝の時間から浜田の家に押しかけた。
まだ眠そうな浜田を起こすのはちょっと気が引けたが、誰よりも早く、誰よりも先におめでとうを言いたかった。
多分メールでおめでとうって言っている人も居るんだろうけど‥今日と言う日に直接言ったのは、俺が一番のはずだ。
「いず、み‥あれ、なにこれ‥夢‥?」
「ばか、夢じゃねーよ」
「‥な、なんでこんな時間に居るの!?練習は‥」
「誕生日だろ!お前の‥ほら!」
「え‥」
シンプルな青に包まれた袋を突き出したそのとき、何故か恥ずかしさが込み上げて来て浜田の前から逃げ出したくなった。
プレゼントは渡したから‥もうこれで俺の目的は達成されたはずだ。
「じゃ、俺はこれで‥」
「待って、泉」
行こうとした身体を引き止められる。
いやだ、離して。
これ以上一緒に居たりしたら‥離れられなくなる。
「ありがとう。すげー嬉しい‥一番に俺に伝えたいと思ってくれたんだろ?」
「い、いや‥そんなことは‥」
「泉‥大好き」
冷たくなった柔らかい頬を温かな手の平で包まれ、そのままキスされた。
外でこんなことするんじゃねーよって怒ろうかとも思ったけど、せっかくの誕生日だし‥朝も早いから誰も見ちゃ居ないだろう。
「‥練習、頑張ってね」
「お、おう‥」
「終わったら‥俺の家に来てくれる?」
その言葉が表す意味はたった一つだけ。
なるべく意識しないようにして、俺は返事を返した。
「あ、あぁ‥。今日は誕生日だからな‥行ってやっても良い。」
「ありがと、泉。‥ケーキも一緒に食べようか?」
「‥ん、食べる」
その後、俺も一緒に食われてしまうことなんて分かっている。
だって浜田はそう言う奴だから。
肌寒い風が吹いて身震いすると、浜田は俺の唇に自分の体温を分け与えた。
「いってらっしゃい、泉」
「‥ん、いってきます。」
朝から本当に恥ずかしい奴。
寒かった俺の体温はいつの間にか熱を帯びるほどになっていた。
今日は大切な記念日。そう‥君の誕生日。
そんな君は、いつも俺を惑わせる。
fin.