□素顔を見せて【甘】*
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本当に愛されているのか、俺にはわからない。


繋がった指先から、繋がった粘膜から、愛してるって言葉が聞こえて来ない。



ただそこには虚しいって感情しか残らなくて。



俺は浜田の性欲処理の道具程度にしか思われていないような気がしてならなかった。




「は、まだっ‥あ、あっ‥!」


「んっ‥はぁ‥んぅ‥いず、みっ‥」




それを思うのも、全部全部この行為のせいだ。


気持ちいい事は確かに好きだ。‥けど、何かが違う。



その何かとは、こういう行為をしている時に、互いに顔を合わせることがただの一度もないという事。


誰かから聞いた。


それって要は、俺の顔を見たくないってことで‥俺を他の誰かと重ねているんじゃないかって。




「ひっ‥ああっ‥ンッ、あ、あっ‥はまだっ‥や、俺‥っ‥もっ‥あぁっ‥!」


「っ‥いいよ、いずみっ‥イって‥良いからっ‥」


「あ、あ、あっ‥!はまっ‥あ、あっ‥はまだぁっ‥!」




何度も浜田の名前を呼び、俺はバックで挿入されたままいつものように達した。


しばらく息を切らして落ち着いた後に、浜田が俺の唇にキスをする。



聞けるわけが無かった。


真実を聞くのが怖くて、後回しにしては浜田から逃げている。



こんな寂しさが残る行為なんて‥もう終わりにしたいのに。




「気持ち良かった?泉‥」


「‥あぁ、うん。」




鈍い返事を返してしまった。


募る不安は拍車をかけて大きくなるばかりで、俺は空回りする。




「なんか‥最近、元気無い‥?どうした?」


「‥まさか、んなことねーよ。‥疲れただけだって。」


「そう、か‥それなら良いんだけど。なんか無理させているみたいで‥」


「あの程度じゃ全然無理なんかじゃねーよ。馬鹿にすんな。」




無理に笑ってみせるのなんて慣れた。


大体の奴はこれで騙せるし、俺は上手くやっているつもりだ。



シャワーを浴びに行こうとベッドから身を離すと、その手を引かれて浜田に引き戻される。


どうしたのかと口を開こうとすると、その口を浜田の唇で塞がれてしまった。




「ンッ‥はぁっ‥あ、ぅ‥んぁっ‥」


「‥なんで、笑うの」


「え‥?」


「俺にそんな笑顔見せたって、すぐにバレるよ。」




ドクンと心臓が高波に飲まれるかのように跳ね上がる。


嫌だ、嫌だ。

頼むから俺を見ないフリをしておいてくれよ。



この言葉を口にしたら、浜田は俺から離れていくのか?


重い奴とか思われたり、遊ばれているだけだったらどうしよう。



不の感情が連鎖して、俺は呼吸もままならなくなる。




「‥なんで、気付くの」


「え‥?」


「わかんねーよ‥あんなんじゃ‥ッ!嘘の笑顔には気付く癖に‥なんなんだよ‥!」




浜田の胸を押し返すと、浅く早くなっていく呼吸が自分の気持ちも同時に早くしているようで、喉に詰まった言葉を押し出そうとする。



瞬間、まるで吐き出すみたいに言葉を並べてしまった。


止まらない感情の連鎖を投げつけるようにして、俺は泣き出した。




「俺は‥っ‥お前の性欲処理、じゃなくて‥!でも、お前はそう思ってて‥」


「性欲、処理‥?泉の事を?」


「いつもだ‥!いつも‥お前は俺の顔、見ないし‥他の誰かと俺を重ねて‥!」


「泉‥ほら、落ち着いて喋れ。な‥?」


「これが落ち着いていられるかッ!」




弾丸のように飛び出した言葉は、俺の心臓に跳ね返る。


言ってしまった、と言う後悔だけを残して。



絶え絶えの息を飲み込むと、今度は浜田が口を開く。



止めて、止めて。


その先の言葉は聞きたくない。




「嫌、だっ‥言うな‥!」


「‥泉、落ち着いて聞いて。」


「俺は‥好き、なのに‥なんで‥っ‥嫌だ、聞きたくない‥!」


「俺は泉の事が好きだよ、世界で一番好き」




真っ直ぐに見据えた視線。


その顔が嘘と言うには、あまりにも綺麗すぎた。




「不安にさせてごめんね、泉‥」


「‥は、まだ‥‥」


「いつもするときは後ろからだったもんね‥そりゃ不安にもなるよね」


「あ、あの‥はま、だ‥?ねぇ‥」




ぎゅっと抱きしめられて、首筋を強く吸われる。


俺のモノだと主張するマークを残され、肩に顔を埋める浜田。




「あのね、泉。呆れないでね?」


「う‥うん‥?」




顔を見られないように伏せたまま、浜田は俺だけに聞こえる声で話し始めた。


いつもの冷静に物事を考える感覚を取り戻した俺は、そのままの浜田の言葉を身体で受け取ることが出来た。




「いつも俺がバックでするのはね、自分の顔を見られたくないからなんだよ。」


「え‥?顔を‥?」


「そう。見られたくないの。」


「なんで‥、別に俺は‥」




みっとも無い顔をしているのは、寧ろ俺の方が当てはまると思う。


そんなことは初めて聞いたし、浜田がそんなことを思っていたなんて気付きもしなかった。




「凄く‥ニヤニヤしてると思うんだよね。泉がエロくて可愛くて‥」


「っ‥お前、そんな顔してんのかよ‥」


「それに泉の顔を見たら‥もっと歯止めが効かなくなりそうで‥」




耳まで真っ赤にしてそんなことを言うもんだから、俺は思わず吹き出してしまった。


そんなことで俺は悩んでいたのかと思うと、馬鹿らしくて笑う事しか出来なかったのだ。



呆れられなくて安心したのか、浜田は笑うなよと俺に言う。


本気で悩んでいたのに‥こうも呆気ない事だったのか。




「‥良かった。性欲処理の道具にされてなくて‥」


「馬鹿。そんな事するわけねーだろ。」


「他の好きな奴と俺を重ねているのかとも思った」


「んな事有り得ねーから。元気がなかったのも‥俺が原因だったんだな‥ごめんな。」




浜田が俺の額にキスを落とし、髪をなでる。


それだけのことで俺は満たされた。



俺の世界の中心は、浜田で回っていてもおかしくないと言わんばかりに。




「なぁ、泉‥。今度は‥顔、見ながら‥してもいいか?」


「‥あぁ。ちゃんと見せろよ?お前がどんな顔して俺を抱いてるのか‥」


「泉も俺に全部見せて。全部俺のモノにしたいから」


「っ‥!」




こんなセリフ、よくも恥ずかしげもなく言えたものだ。


顔も見せられないくらいの恥ずかしがり屋なくせに、こんなセリフは出てきてしまう。



浜田らしいというべきなのか、なんなのか。



浜田に身を委ねると、俺たちは初めてお互いの顔を見ながら愛し合う行為をした。


その満たされ方と言ったら、比べものにならないくらいの幸福感で‥どうやら浜田も同じ事を思ったらしい。



キスして、抱き合って、その幸せな中で眠りにつく。


こんな毎日をこれからもお前と過ごしていければ良いな、と思った。




fin.




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