□太陽と冷たい手【切甘】
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今日も夜は明けない。


真っ暗闇の中、俺は今日も枕を涙で濡らしている。



泣きながら想い人を想像しては自身を慰め、その虚しさに日に日に心の穴は大きくなって行った。


止めようとしても身体はそれを止められない。



この報われない恋の終焉を、俺は迎えられるのだろうか?




「おはよー泉!」


「ちす。朝っぱらからテンションたけぇなぁ‥」


「えへへー!今日はスッキリ起きられたんだよ!」




人の気も知らないで飛び回るうるさい鳥。


朝から囀るその声はけたたましいけれど、それは俺の好きな声だ。




「はよっ!水谷、泉!」


「おー栄口!おっはよー!」


「‥はよ」




俺は暗い顔で返事を返した。

朝からテンションなんて上がるわけもない。


怒っているわけじゃないのは、二人とも分かっているから問題無いだろう。



ただ‥痛い。


とても痛い。




「ちょ、水谷!くすぐったいって!」


「瞬間リラックス法だよー!ほらほら!」


「あははは!やめろってー!」




二人がじゃれ合うのを見ていると、とても辛いものがある。


きっともう二人は‥付き合っているのかもしれない。


俺が入れる隙なんて、ありやしないんだ。




「‥遊んでんなら、先に行くぞ」


「えー?待ってよ泉ー!」


「あ、ほら!早くしないと朝練遅れるよ!」




ぱたぱたと三人で朝練に向かう。


あぁ、辛い。

こんなことなら恋なんてしなければ良かった。



にゃあにゃあと鳴いて、手招きをして。


捨てられた猫のように震えていれば、お前は俺を好いてくれるだろうか?




「あ‥悪い‥二人とも先に行ってて」


「え?どうしたの?泉」


「なんか腹痛いからトイレ行ってくる。モモカンに言っておいて」


「なーんか‥栄口みたいだねー?トイレに行きたくなるなんて‥」


「っ‥水谷!ほら、さっさと行くよ!」




二人が仲良くしているのを見ていると辛い。


熱中症かな、頭がクラクラする。



ジリジリと焼けるように熱い太陽。


このまま焼かれてしまいたい。


俺が溶けて居なくなれば、この気持ちも一緒に流れてくれるだろうか?




「‥泉?」


「‥‥は‥まだ‥」


「どうした‥こんな所で‥具合悪いのか?」




そう言って手を差し延べる浜田。


浜田の立っている先に、二人の後ろ姿が見えた。



その遠くを見る目は、浜田に見抜かれてしまったらしい。




「俺じゃ‥ダメ‥?」




目の前が暗くなり、二人の姿が見えなくなる。


浜田が俺の目を手で覆い被して、見えなくしたのだ。




「っ‥うっ‥ぇ‥」


「‥泉」




今日も夜は明けない。


俺はその日、浜田とキスをした。


俺に朝は来るのだろうか?


心にぽっかりと空いた穴を埋めて欲しい。



真夏なのに冷たく冷えた手。


その手に遮られ、見えなくなった世界。



ああ、助けてくれ。


このまま太陽に焼かれてしまいたいのに、冷たい手がそれを邪魔をする。




fin.




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