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□発火剤【甘】*
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風邪を挽いてしまった。
頭がクラクラして、食欲も無い。
吐きそうなのを堪えて、俺はベッドへと身体を預ける。
暑いのに寒いという感覚が俺を襲い、側に居た人物は冷やしたタオルを優しく頭の上に乗せた。
「泉‥大丈夫?」
「平気‥風邪うつるから、お前はもう帰れよ」
「両親、旅行中で居ないんだろ?今日は学校も休みだから‥」
「なんでお前が旅行に行ってること知ってるんだよ?」
「この間、お母さんが話してたよ。嬉しそうに。よっぽど楽しみだったんだろうね。」
こいつは俺の両親とも仲が良く、一人暮らしをし始めた浜田をお袋は心底心配して差し入れを作ったり、一緒にご飯を食べようと家に呼んだりしていた。
今では一緒にご飯を作るような仲で‥仲良くするのは良いけど、これじゃあまるで家族みたいだ。
「今日はずっと側にいるよ。何でも言うこと聞くからさ」
「なんでも?」
「うん。ご飯作ったり身体拭いたり、こうして冷えたタオルをあてたり‥」
「わかった。それじゃあ帰れ。」
「それは聞けない」
チッと舌打ちをして浜田に背を向けると、浜田は困ったように笑った。
お前の為を思って帰れと言っているのに‥風邪がうつったらどーするつもりだよ。
「おかゆ食べれる?薬飲んだ方が良いんじゃないかな?」
「‥いらない、食欲ない。」
「じゃあとりあえず作っておく。本当に無理そうなら止めておけ。」
「‥わかった。」
要らないって言っているのに、浜田はおかゆを作る支度に取り掛かる。
多分、浜田は分かっているのだ。
今は本当に食欲がないんだけど、浜田の料理を見た瞬間にお腹が減って食べたくなってしまうことを。
「‥少し寝てて良いよ。ご飯が出来たら起こすから。」
「ん‥わかった‥じゃあ少しだけ‥」
大きくて冷たい手が額に触れ、その心地良さに俺は目を細めた。
俺が眠ろうと目をつぶったのを見計らい、浜田が部屋を出て行く。
‥どのくらい時間が経ったのだろう。
俺の名前を呼ぶ声で目が覚めた。
愛おしそうにその名前を呼んでいるから、俺は思わず寝たフリをしてしまう。