捧げ物
□朝の時間【甘】
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「はまだ!起きろ!いい加減にしないと遅刻するぞ!?」
「‥‥うぅん‥」
昨日も残業で遅くに帰って来た浜田は、今だ夢の中にいる。
俺がベッドで寝ている間に、いつ帰って来たのか‥いつの間にかベッドに入りこんで来ていて、一緒に寝ていた。
俺はコイツが、餓鬼かと思うときがある。
そんなことを思いながら、ベッドからコイツを追い出せ無い俺は‥相当甘い野郎だ。
「浜田!いい加減にしないと朝ごはん抜きだぞ!!」
「ぃ‥ず‥みぃ‥」
顔の近くで大声を上げると、金色の瞳が俺の姿を一瞬だけ捕らえる。
その一瞬の隙に、寝ぼけた浜田の顔が近づいた。
「うわっ!‥‥んっ‥ふむっ‥」
「はぁ‥いずみー‥俺昨日の残業で疲れちゃった‥」
「っ‥疲れてる奴は、んなことしねぇんだよっ!!」
スパーンッ!!と浜田の頭を叩くと、いってぇー!と情けない声を上げて頭をさする裸の浜田。
浜田が裸なのは、ただ単に暑くて自分で勝手に脱いだだけなんだけど‥‥
そんな姿でいられると、何もしていないのに、いやらしいことをした気分になってくる。
「なぁ〜‥いずみ〜?‥何もしないから、もっかいちゅーして?」
「はぁ!?」
「ちゅーしてくれなきゃ起きないよ?」
不意に手を絡めとられ、俺は浜田から逃げるタイミングを失ってしまった。
勝ち誇ったような笑みに、俺の心臓がドクンと高鳴る。
「かっ‥勝手に遅刻しろ!馬鹿っ!」
「じゃあ、泉も一緒に遅刻するの?俺、キスしてくれるまで離す気ないけど。」
「‥別に‥俺は‥」
今日は栄口と出かける予定があったけど、それは午後からのこと。
遅刻なんて俺はしないんだけど、浜田が仕事に行ってくれなくなるのは困るんだ。
これ以上コイツがダメ人間になったら俺が困るし‥‥
‥それに、こんな生活も出来なくなる。
「‥わっ‥わかったよ‥目‥、閉じろ‥よっ‥」
浜田の瞼が閉じたことを確認すると、俺はぎゅっと目をつぶり、えいっと浜田の唇に自分の唇を押し当てた。
朝の食卓に漂うみそ汁の香りが消えて、ふわっとした花の香りのシャンプーと、心地良い浜田のにおいに包まれる。
いつも傍にいるその匂いに酷く安心してしまい‥俺は名残惜しそうに唇を離した。
「‥おはよ、孝介。」
「‥お‥おはよう‥よ、よし‥ろ‥‥ぅ」
まだ慣れない言い方を口にすると、浜田はまるで子供のような笑顔を見せる。
ベッドから浜田が立ち上がると、どうしても俺は浜田を見上げる形になってしまって‥浜田から目が反らせなくなってしまう。
「‥続きは夜ね?今日は早く帰ってくるよ。」
「‥わかった。待ってる。」
いってらっしゃい。
そして‥帰って来たときは少しだけ素直になってみよう。
「おかえり、よしろう。」って笑顔で言えるように。
fin.
→あとがき