その他

□互いの速度【甘】
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好きな人にあれこれしたい欲求。

それは恋人同士なら湧いてもおかしくはない感情だと思う。


だけど俺の恋人ときたら、そんな欲求は微塵も感じていないようで。

寧ろ付き合っているのかさえ危ういような、そんな脆い関係の狭間に俺たちはいた。




「シンタローさん‥」


「ちゅーしたい‥」


「‥やだ、」


「なんで!」




ほらこうやって。


恋人同士のはずなのに、ちょっとおかしいんじゃないか。


シンタローさんが恋愛に疎いことは知ってるけど‥でも、これじゃあんまりだ。




「口にちゅってするだけじゃないっすか‥なんで‥」


「時と場所を考えてから言え」


「考えたらしてくれるんすか!」


「‥考えてやる」


「えー‥なんでっすか」




ぶぅっと口を尖らせて、俺はシンタローさんの座っているソファーの背もたれで項垂れた。


キスをしたのはほんの数えるほど。それ以上のことはさせて貰えてない。

こんなんじゃ俺、欲求不満で死んじゃうかもしれないっすよ。




「マリーのとこ‥行こうかな」


「っ‥」


「?」


「勝手に、しろよ‥」




俺のぽつりと呟いた言葉にシンタローさんはこっちを向き、顔を赤くしながら再びそっぽを向いた。

傷ついたような、そんな顔をして。

シンタローさんが俺に構ってくれないからマリーと遊ぼうとしただけなのに‥何がそんなに‥。


‥‥あれ?

もしかして‥‥もしかして、かもしれない。


決して自惚れているわけではないのだけど‥でも、もしそうだとしたら‥?




「シンタローさん‥」


「なんだよ」


「もしかして今‥妬きました?」


「‥はぁ!?」




俺が妬くわけねーだろ!と言い返され、でもその顔は真っ赤のままで。

そんなシンタローさんの反応が俺は素直に嬉しかった。


シンタローさんは自覚がないかもしれない。

少しずつ‥少しずつだけど‥、シンタローさんの気持ちが変わり始めているのかもしれない。




「はやく、いけばいいだろ‥マリーのとこ‥」


「シンタローさん、俺マリーのとこ行かないっすよ」


「は?‥今いくって‥」


「シンタローさんがキスしてくれたら、行かない」


「‥っ!?」




ぼんっとシンタローさんの顔が赤くなって、それはぷしゅーという効果音が聞こえてきそうなほどだった。


俺の事、意識してくれてるんだなって、そんなことが嬉しくなった。



今までのシンタローさんは、恋がどういったものか、好きとはどんなことなのか、そんな感情すらもわからないでいた。


でも‥この反応は、少しずつ、俺の事を恋人として意識してくれているのかもしれない。




「‥‥俺、からは‥‥むり‥」


「わかった、じゃあ‥目、閉じて?」


「‥ん‥‥」




いまだにガチガチに身体を硬直させて、口も閉じっぱなしだから触れるだけのキスしかできない。

でもそんな大人のキスをしてしまうと、俺自身もそれ以上が欲しくなってしまう。


だから今は、これだけ。


シンタローさんのペースに合わせて、ゆっくりと二人のペースで進んでいけばいい。




「セト‥?」


「ん、好きっす。シンタローさん」


「なっ‥ば、ばかっ‥ん、ぅっ‥」




そう言って、触れるだけのキスを貴方に。


次に目を合わせると、今度は耳まで真っ赤にして。


俺はそんな貴方が大好きです。




fin.




→あとがき
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