その他
□二つの存在【甘】*
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「あ、はぁ‥あぁ‥んっ‥那月ぃ‥」
深夜の部屋の一室。
そこから聞こえて来るのは、甘くて淫らな嬌声。
隣の奴に聞こえてしまうのではないかと思うが、ここは部屋でも自主練できるようにと防音の設備が完璧に整っている。
まぁ、かと言って声を出してしまうのも、恥ずかしくていたたまれない気持ちになるのだが‥。
「翔ちゃん‥可愛いです」
「っ‥あ、ぅ‥はぁっ‥んっ‥かわい、い‥とか‥言うな‥っ‥!」
「だって‥本当に可愛いです。こんなに目がうるうるしてて、顔も赤くて‥身体も‥」
「わ、わかった‥!わかったから‥言わなくていい‥」
天然で無自覚と言うものは恐ろしい。
本気でそんなことを言ってくるものだから、俺はその反応に困ってしまう。
真っ赤になった顔を反らすと、それを許さないと言わんばかりに那月がキスを仕掛けてくる。
あぁ、もう‥本当に敵わない。
「な、つき‥もっ‥ふぁっ‥ぁ‥んぁっ‥ああっ‥」
「翔ちゃん‥辛い、ですか‥?」
「っ‥んっ‥く‥は、ぁっ‥うっ‥わかって、んなら‥早く、しろよっ‥」
「辛そうな翔ちゃんも可愛いから‥もっと見ていたいなって、思って‥」
「ふざ‥け、んなよっ‥!はやく、挿れ‥って‥ンッ‥!」
涙目になりながら辛いと懇願しても、那月は一向に挿れてくれる気配がない。
顔や首筋にキスをして、俺の反応を楽しんでやがる。
「那月‥っ‥あっ‥いや、だっ‥もっ‥ああっ‥」
「翔、ちゃん‥」
その行動にムカついた俺は、那月の顔を払いのけるようにして手を伸ばした。
瞬間、カシャンと無機質で不吉な音が俺の耳に鳴り響く。
青ざめた時には‥もう手遅れ。
床へと叩きつけられた那月の眼鏡は、俺が手を伸ばして届くはずも無かった。
「テメェら‥」
「う、あ‥そ‥その‥さ、砂月‥?」
「いつもこんな事して‥お前、ホモだったのかよ」
「あの‥これは‥!その‥」
否定できなかった。
俺と那月が付き合っている事を、砂月に話したことはない。
話そうと思ったこともあったが、同じ身体の持ち主が男を抱いているなんて‥きっと考えたくもない事だろうと思い、ズルズルと引き伸ばしにしてしまった結果だ。
想いが通じてキスをすれば、一線なんて呆気なく越えてしまう。
俺は砂月のその質問に、佇むことしか出来なかった。