その他

□届かない音【シリアス】*
1ページ/3ページ

俺は那月が眼鏡を外すと出て来る人格に過ぎない。

所詮は那月の一部で、那月の悲しみを背負うだけの存在。


俺はそれで良いと思っているし、那月が幸せになれるならそれで良いと思っている。



ただ‥どうしても那月には譲れない物が一つだけある。




「‥久しぶりだな、翔」


「砂月‥?お前から話しかけて来るなんて‥珍しいな」


「お前に会いに来たんだ。那月は今寝てるから‥」


「そんなの見りゃ分かる。同室なんだから‥んっ‥」




椅子に座って作詞をしていた翔の唇を塞ぎ、風呂上りのサラサラとした柔らかな髪を撫でた。

普段はピンで髪を止めて帽子を被っているから‥なんだか新鮮な感じだ。


那月を理解してくれる、唯一の愛しい存在。


昔から一緒に居て‥コイツのお陰で、俺も那月も心が穏やかになる。




「砂月‥止めろって‥」


「‥楽しいことしようぜ、翔。」


「っ‥馬鹿言ってんじゃねーよ。嫌だって‥いつも言ってんのに‥っあ‥ッ‥!」


「ほら、ベッドでするから‥こいよ」


「作詞してんのに‥俺の都合なんてお構い無しに出て来やがって‥」




俺が手を引くと、翔はブツブツと文句を言いながらもそれに応じた。


翔をベッドへと座らせると、今度は深く口を付ける。



力加減が出来ない俺は、たまに翔を傷付けてしまうことがある。


優しく割れ物を扱うように。


十分な気遣いをしながら俺は翔の身体に触れた。




「っ‥あっ‥も、良いだろ‥砂月‥やめっ‥」


「まだ始めたばかりだろ。逃げんじゃねーよ」


「あ、ぅ‥ふぁっ‥あっ‥砂月ぃ‥や‥ぁっ‥!」




ベッドに押し倒して服を脱がしにかかると、翔はほんの少しの抵抗の色を見せる。


気持ち良くさせてしまえばこっちのものだ。



首筋に口を付けて強く吸えば、そこに残るのは綺麗な紅。


翔は俺のモノだと言う印だ。




「ちょ‥お前‥見えるところにキスマークなんて‥!」


「那月が見たら‥どう思うんだろうな?自分の知らない所にキスマークがあるなんて‥自分が付けたことも知らずにな‥」


「っ‥消せ!今すぐ消せよ!」


「無理に決まってんだろ。大人しくしてれば、もう痕は残さねーよ。」




愛撫を受けながら、翔は何か別の事を考えているようだった。


キョロキョロと辺りを見回し、ある一点へと手を伸ばす。



翔の手の先にあったもの‥それは、那月のいつもかけている眼鏡だった。


その眼鏡をかけると砂月と言う人格が消え、那月と言う人格が表に出て来る。


砂月と言う人格は、那月が眼鏡を外すまで出て来れなくなるのだ。




「っと‥あぶねーな‥」


「くそっ‥!」


「‥翔、まだ抵抗するのか?そんなに嫌なら殴ってでも逃げれば良いだろ。」


「力じゃお前に敵わねーし‥それに‥‥」




力で俺に勝てる奴は確かに居ない。

キレると手が付けられなくなる俺は、喧嘩で何人もの奴を病院送りにして来た。


暇さえあれば作曲したり作詞したりはするものの‥気に入らないことがあれば直ぐに暴力を振るってしまう。




「それにお前は‥那月の一部だから‥」


「っ‥俺が那月だから‥抵抗しないって言うのかよ‥?」


「俺が砂月を傷付けたら‥那月を傷付けることになるだろ?」


「んだよ‥それ‥」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ