その他
□追試課題【甘】*
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「ちくしょお‥あのホクロメガネ‥こんなに追試課題出しやがってぇ‥」
俺は今、現在進行形で、学校のテストの追試を受けさせられている状態だった。
確かに自分が悪いんだろうけど‥かといって、授業中寝ていて右も左も分からない奴に、この膨大な量の課題はどう考えてもおかしいだろ?
羅列されている問題が解るわけもなくて、俺は頭を抱えて悩み込む。
ふと脳裏に過ぎるのは、雪男が夜な夜な熱心に俺に勉強を教えてくれたこと。
細い糸を手繰り寄せるように雪男の言葉を思い出しながら、俺はその問題に取り組んだ。
「兄さん、調子はどう?」
何時間経った事だろう。
仕事を終わらせた雪男が様子を見に教室に戻ってきた。
顔を上げてみると、さっきから3時間は時間が経過している。
俺がこんなに集中するなんて‥本当に珍しいことだ。
「あ‥あぁ!見ろよ!結構出来たんだぜ!」
「どれ?見せてみて‥‥へぇ‥」
流すようにして俺の回答を見る雪男。
その視線が俺の書いた字を追っている。
先生にその場で採点されると言う作業は昔からもの凄く緊張して、背筋がピンと張ってしまう。
それに連動するかのように、俺の尻尾もピンと先まで伸びていた。
「意外と出来てる‥ビックリだ‥」
「ま、マジでか!?」
「うん。凄いよ兄さん!やれば出来るんだね。」
その言葉がバカにされているなんて事には気付かず、素直に嬉しくなって目の前がぱぁっと明るくなる。
パタパタと尻尾を左右に振り、俺は褒められた喜びを隠さずには居られなかった。
「じゃあ終わりだよな!早く帰ろうぜ!」
「ちょっと待って、兄さん。今日の兄さんは凄く良く頑張ったから‥先生の僕から、ご褒美をあげるよ。」
「ご褒美!?なんだそれ?欲しい欲しい!」
着いてきてと言われ、鼻歌を歌いながら俺は雪男の後に続く。
雪男に褒められて、それにご褒美も貰えるなんて。
追試もたまには良いもんなんじゃないかと、廊下を歩きながら思った。
雪男に言われて付いていった先は、俺たちがいつも授業で使っている教室だった。
「せーんせっ!なにくれんの?」
こういうときだけ、ふざけて先生と呼んでみたりする。
ご褒美が貰えるんだから、今くらいなら許されてもいいはずだ。
雪男が机から取り出したのは、甘そうなピンク色の包装紙に包まれたチョコレートだった。
「疲れた時には甘いものが良いんだって‥兄さん、疲れてるでしょ?」
「おうおう!たまには気が利くじゃねーか!頭使いすぎて、もうヘロヘロ〜って感じ?」
そう言って雪男が差し出したチョコレートを一口で食べて飲み込む。
甘く蕩けるような食感は、俺の身体全てを痺れさせるようだった。
ん‥痺れさせる‥?
「ゆ‥きお‥」
「‥何?兄さん」
「な‥ん、か‥‥眠‥ぃ‥」
俺の意識はそこで途切れた。
深い眠りへと落ちて行き、追試の疲れが一気に来て倒れたのか‥と思った。