■桜蘭高校ホスト部■

□ヒミツのカタチ
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呼び止める声に顔を上げると、集団の中心で鏡夜がハルヒの事をじっと見ていた。
そんな鏡夜の視線に気付いた女子たちが、一斉にこちらを振り向く。

急に大衆の注目を浴びて、ハルヒはたじろいだ。
鏡夜は女子に道をあけさせると、集団から抜け出してズンズンとハルヒに近づく。


「どこへ行くんだ?俺に用だと思ったが、違うのか?」

ハルヒの行く手を阻むように鏡夜は立ちはだかる。ハルヒは女子の視線を気にしながら小声で答えた。

「でも…お取り込み中みたいだし…ほら、みんな待ってますよ」

「だが、お前もずっとここで俺を待っていただろう?」


眼鏡の奥の涼しげな目が優しく細められたように見えて、ドキンと胸が高鳴る。

先輩は自分がいることに気付いてくれていたんだ…。

そう思うだけで、モヤモヤした気持ちが晴れてゆくのがわかる。
ハルヒは鏡夜ファンの女の子たちから感じる羨望まじりの興味の視線に、ちょっと優越感すら覚えていた。

もちろん彼女らには、鏡夜が仲のいい後輩男子と語らっているようにしか映らないだろうが。


「先輩、お誕生日おめでとうございます。プレゼントなんですけど、実はなにも用意できなくて」

ハルヒは小声で続けた。

「…なにかご希望があれば言ってください、放課後に買いに行きますから。やっぱりこういうのは今日中にお渡ししたいんで」

「ああ、ではひとつ頼みたい物があるんだが」

「なんでも言ってください。高いものはムリだけど、なるべく頑張ってみま……って、ちょっと!何するんですか!?みんな見てますって!」


ハルヒは素っ頓狂な声をあげた。
鏡夜がハルヒの右手をいきなりぐいっと掴んだのだ。
反射的に引っ込めようとすると力ずくで掌を開かせられる。

そして鏡夜は、あいた方の手で自分の胸ポケットをまさぐると、握ったままのこぶしをハルヒの掌に押し付けた。



手の中に感じたのは、硬い金属の感触。
ハルヒは掌に置かれたものをまじまじと見つめた。

「これって…?」

それはシルバーのリングだった。蔦が絡んだような個性的な彫刻が施されていて、少し厚みのあるデザインだ。


ハルヒは目を丸くしたまま、指輪から鏡夜へと視線を移す。


「あのなぁ、鳳グループの財力は知っての通りだ。いまさら俺が庶民のお前に何か買ってもらおうと考えると思うか?」

「そっ、それはそうですけどねっ…」

さらり失礼なことを言う鏡夜に抗議の声をあげたが、彼の頬がわずかに赤らんでいるのに気付いて、ハルヒは続く言葉を飲み込んだ。


「祝いの品物はなにもいらないから、これをつけてくれ。それが俺の希望だ」


そう言う彼の左手にも同じデザインのリングが光っている。

つまり、これは。


「ペアリング…ですか?」

「ああ。男女共用のデザインだから、校内でもつけていられるだろう?」


確かに、男子のふりをしているハルヒでもこれなら不自然ではない。

鏡夜先輩に近づく女の子たちも知らない、二人だけの絆の証。
こうやって目に見えるカタチで鏡夜と繋がっていられれば、今日のようなやる瀬ないヤキモチに悩む事もなくなりそうだ。


鏡夜先輩は気付いてたんだ、自分の不安に。そんな事、一度だって口に出したことはないのに…。

ハルヒは愛しい恋人の顔をみつめると、感嘆のため息とともに自分でリングをはめた。サイズはぴったりだ。


「先輩って…いつでも自分の事を見てくれているんですね」


「当たり前だろう。“カレシ”だからな」

そう言うと、鏡夜はすばやくメガネのふちを指で持ち上げた。





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