■桜蘭高校ホスト部■
□渦
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「退学…?」
突然に告げられたその言葉に、ハルヒは呆然と立ちすくんでいた。
「このままでは、いずれそうなるだろうな」
困った事になったな、と鏡夜は小さくため息をもらすと、つとめて抑揚のない声で言う。
そうやって冷静さを保ってはいるが、さすがの彼も困惑を隠しきれないように、机の上で組んだ長い指を神経質に揺らしていた。
「気の毒だが、この噂が広まれば確実に退学だ。お前は特待生だからな」
学校の図書室の一画にある予約制の個室。
今は試験が終わったばかりで利用者がいないので、内密に話ができる。
鏡夜は窓の光の届かない奥の席に座り、ドアの前に立ち尽くすハルヒを見ていた。
この桜蘭に庶民が通学するには厳しい審査がある。
学年トップの成績をキープする事はもちろん、生活態度も常にチェックされるのだ。
桜蘭の生徒として相応しくないと判断されれば、すぐに奨学金を打ち切られることは間違いない。
ハルヒは「弁護士になる」という明確な目標を持ち、その学習意欲を認められて特待生に選ばれたのだ。
しかしそれが今、悪意あるゴシップの前に揺らごうとしていた。
表情には出さないが、鏡夜はイラついていた。
その原因は、机に広げられた数枚の写真。
鏡夜は神妙な面持ちで言った。
「…軽率だったな、ハルヒ」
それはハルヒが本来の姿…つまり女の姿で夜の繁華街を歩いている写真。
ブルーの夏らしいワンピースにカーディガンを羽織った格好だった。
そしてハルヒの隣には須王環の姿が。
「この写真は…?」
「昨日、ホスト部に送られてきた。差出人は不明だ」
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