■桜蘭高校ホスト部■
□君だけに見せる素顔
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鏡夜が壁に腕を伸ばしたかと思うと、ふいに部屋の明かりが消えた。
「鏡夜先輩?」
暗闇の中、互いの腕が触れるほどの距離で向かい合っているというのに、ハルヒはただ不思議そうな表情で鏡夜を見上げている。
「花代は、お前の体で払ってもらってもいい、と言っている」
「わっ、ちょっと、先輩?」
急に腕を引かれ、バランスを崩すハルヒを、鏡夜は強引にベッドに組み敷いた。
仰向けに倒れるハルヒの上に馬乗りになって、その手に自分の指をからめ動きを封じる。
「男の部屋に、こんな格好でやってきたことを後悔するんだな。それとも、この状態でもまだ男と対等に立ち合えるつもりか?」
ハルヒは驚いた表情を見せてはいるが、怯えた様子もなく、その大きく澄んだ瞳で鏡夜を見ていた。
鏡夜も、その瞳に吸い寄せられるようにじっと見つめ返す。
…視線を絡ませたまま動くことができずに、時間だけが過ぎていく。
根負けしたように鏡夜が先に声を出した。
「…お前には危機管理能力がないのか?」
「いえ、驚いてます。すごく」
「お前ね…」
鏡夜はいまだハルヒに覆いかぶさったままだが、押さえつける手の力を緩めて、呆れたようにため息をつく。
そんな鏡夜を下からまっすぐ見つめて、ハルヒは微笑んで言った。
「鏡夜先輩。昼間はご心配かけてスミマセンでした」
「・・・。」
普段から人を頼ることをしないハルヒ。
しかし男女の力の差は歴然だ。
性別の区別意識が希薄なせいもあり、危険を考えずに無茶をする。
昼間のそんなハルヒの行動に環は激昂したのだ。
そして、鏡夜も。
鏡夜はあの時、ハルヒを追って海へ飛び込むこともせず、騒動の最中は常に冷静に事後処理を行っていた。
その後も心配している様子など微塵も見せなかった。
…少なくとも、表面的には。
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