■桜蘭高校ホスト部■

□若葉デート
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上流階級では、社交目的のパーティなどを催して余暇を過ごすのも仕事のうちと考えられているため、桜蘭ではカレンダー通りの飛び石連休などというケチな休暇は取らない。

最低でも10日間は休校となるのである。


それだけの大型連休が近づいても環が騒ぎ出す気配がないことには気づいていたのだ。
だがどうせ休みの2日目にもなれば、退屈をもてあました環が鏡夜の家へ乗り込んでくるだろうと思っていた。


しかし3日目になっても環からは電話のひとつもない。どうしたのだろう。
なにか他に予定があるにしろ、あいつの事だから喜々として報告のひとつもしてくるだろうに。


こちらから連絡してみようか?

いや、そんな必要はない、とすぐに思い直す。べつに休みにまで部員たちと行動を共にする理由はない。
だが、強引につきあわされるのが恒例のようになっていたのだ。当たり前のように今回も召集がかかるものと思い込んでいた。


「だからといって、なにも予定を入れずにいたなんて、まるで…」

…まるで俺が、あいつらの誘いを待っているようじゃないか。


ふとそんな考えが頭をよぎったが、つぎの瞬間、鏡夜は憮然としてそれを否定した。

冗談じゃない。
誰があいつらなんかと。
なんのメリットもないのにわざわざ休日に連れ立って遊びに行くなんて、そんなことを俺が望むわけがない。


ただでさえプライベートの時間が削られていたのだ。今やっと自由な時間を満喫できるのだと心の底から喜んでいる。


…ただ、あいつらを放っておいたらデメリットになるからだ。

あいつらの巻き起こす騒動を体面的にも経済的にもマイナスにならないよう、むしろプラスに転じるようにうまく後始末ができる人間は俺しかいないだろう。

だから問題が起きてもすぐに対処できるようにと、無意識のうちに予定をあけてしまっていたのだ。

それだけの理由だ。


「…習慣というのは恐ろしいものだな」

鏡夜は、うんうん、と頷きながら、自分に言い聞かせるようにつぶやいた。


鏡夜としてもこれ以上ムダに休暇をつぶすのは本意ではない。

さて、何をしようか。



…だがその前に、あいつらが厄介を起こしていないか確認しておくのも悪くないかもしれない。


ホスト部に不利益が出る前に対処するのも副部長の役割だからな。

今度はそんな理由で自分を納得させてみる。
鏡夜はテーブルに置かれた携帯電話に手をのばした。



その時、携帯電話が激しく震え出した。鏡夜は小さな声をあげて思わず手を引っこめる。

ランプを点滅させながらテーブルの上でもがくように動いているそれを上から覗き込む。

液晶に表示された名前は、

『藤岡ハルヒ』





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