■桜蘭高校ホスト部■

□よみきりSS集
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■気持ちの裏側■


さっきから腕を組んだり戻したり、なにか言いかけてまた黙ったり。
いつもの鏡夜先輩からは考えられないくらい落ち着きがない。


「どしたの鏡夜先輩?なにか相談ごと?」


話があるから、光には内緒で部室に残ってくれなんて。先輩が僕だけを呼ぶなんて珍しいよね。


「ああ…お前らが2人揃うと面白がって人のプライバシーを引っ掻き回すからな。おおごとにしたくない」


はいはい、すいませんネ、お騒がせで。


「お前は光といる時は勝手気ままに振る舞っているようにしか見えないが、本当は人の気持ちを察する事にたけているだろう?だからお前の言葉なら信用できる」


…そんな風に言われるのは初めてだったから、僕はちょっと戸惑って鏡夜先輩を見た。

確かに、僕と鏡夜先輩は似た種類の人間だと思う。相手はいつもクールな鏡夜先輩だから、表向きの性格だけなら一体どこに共通点があるのかと思われるだろうけど。

僕も先輩も決して他人に見せない『気持ちの裏側』を持っている。
そして他人が無意識に隠しているその『裏側』の部分を敏感に感じ取ってしまうんだ。

知りたくない気持ちにも気付いてしまう。

そのせいでいつも損な役回りをさせられるんだよな。


だから今、僕は鏡夜先輩に対して秘密を共有するもの特有の仲間意識を感じていた。僕で役にたてるなら力になりたいと心から思った。


「恥をしのんで聞くが……」


深刻に眉を寄せて声をそっと低める先輩に、僕もグッと身を乗り出す。


「ホワイトデーというのは、何を贈ればいいんだ?」


はぁ?なにそれ?

拍子抜けしてポカンと口を開けて身を反らす僕の目の前で、鏡夜先輩はいまだ深刻な面持ちで腕を組んで俯いている。


…それってつまり、ハルヒへのお返しを何にしようかな?っていう相談?


それを僕に聞こうっていうの?
いい加減にしてよ。


僕はちょっとムッとした。


僕の大好きなハルヒが選んだのは、僕ではなく、光でもなく、鏡夜先輩だった。それはもう仕方ないと思っている。だって僕にはハルヒの気持ちの裏側がわかるから。


恋愛に淡泊で、気持ちをあんまり表に出さないハルヒだから、特別に好きな人がいるなんて微塵も感じさせないけれど。


だけどその裏側は、鏡夜先輩の事でいっぱいなんだ。


本当は…気付きたくなんかなかった。

チクチクと針がひっかかるような痛みが胸を刺す。
僕はその痛みをやりすごして、いつものような軽い口調で話を続ける。



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